(大学変貌)学長主導へ改革どこまで トップダウンの意思決定狙う 『朝日新聞』 2013年10月18日

『朝日新聞』 2013年10月18日

(大学変貌)学長主導へ改革どこまで トップダウンの意思決定狙う

大学で学長がリーダーシップを発揮できる環境をつくろうと、組織のルールを改める動きが加速している。「ガバナンス(統治)改革」とも呼ばれ、国の議論も始まった。教授会の役割の見直しなどにもつながっているため、現場からは根強い反対の声も上がっている。

■教授会の権限見直しへ

「学部長の『指名』制度は、国の動きに沿うかたちで突如持ち出された。学部として反対の立場で取り組むことが必要ではないか」

山口市の山口大で9月にあった「緊急集会」。山口大教職員組合の鴨崎義春委員長は、学長側が提案した学部長選考の改革案に反対するよう、集まった約20人の参加者に呼びかけた。

学部長の選考方法について、従来の山口大の規則は「各学部教授会の議に基づき、学長が行う」としており、学長は学部が選挙などで選んだ候補を事実上「追 認」してきた。ところが、改革案では、学部から3人以内の複数の候補を推薦させ、学長がその中から役員会の承認を得て任命する仕組みとなる。候補に所信表 明を出してもらい、面接も行うことで、学長が主体的に選考に関わることになる。

国立大学は2004年度の法人化以降、国からの運営費交付金が減らされ、改革を迫られ続けている。06年に就任した山口大の丸本卓哉学長も教養教育の見直しなどを進めてきた。一方で、関係部局の説得や調整に時間がかかったとの反省があるという。

丸本学長は「国立大のガバナンスが発揮できないのは、部局中心の考え方が抜けないからだと言われてきた。山口大でも、もう少し部局長の理解が進んでいれ ば、よりスピーディーに改革できたと思う」。学部長選考方法の変更は、執行部と部局の「一体感」を高める狙いがあるという。

こうしたガバナンス改革の背景には、「トップダウン」の強化を目指す経済界や政府の動きもある。経済同友会は昨年、学校教育法を改正して教授会の権限を 限定するよう提言。教授会が教育研究だけでなく、大学の運営にも関わり、「組織決定の迅速性を阻害」していると指摘した。政府の教育再生実行会議も今年5 月、教授会の役割の明確化を提言に盛り込んだ。

私立大学でも同様の動きが出ている。追手門学院大(大阪府茨木市)は7月、学則を改定して教授会を「諮問機関」にした。

同大の教授会には、もともと学部の教員人事や「その他重要事項」について審議・決定する権限が与えられていた。かつては学長が決めた副学長人事が学部などの意向で否決されたケースもあったという。

坂井東洋男学長は「諮問機関化は、審議はしてもらうが、『決定』はさせないということ。教授会の決定がないと何一つ前に進めないというシステムでは、改革ができない」と話す。

■「学長の暴走」危ぶむ声

教員からは反発の声が上がっている。山口大では、各学部の会合などで反対意見が続出。人文学部の准教授の一人は「教授会の自治を危うくする制度。改革の必要性はわかるが、学長の言うことを聞く中間管理職を増やすことが本来のやり方なのか」と憤る。

全国大学高専教職員組合の長山泰秀書記長は「経営の観点からスピード感や成果ばかり重視されると、時間のかかる研究分野などはおろそかにされる」と指 摘。同組合は7月の定期大会で、トップダウン強化の動きを「教授会の権限を根こそぎ奪おうとしている」と批判する特別決議をした。

教授会の改革は、学長の権限強化と一体である場合が多く、学長の「暴走」を懸念する声もある。これに対し、山口大の丸本学長は「教授の人事や学問の専門 的なところに口を出すつもりはない。おかしい点が出てくれば、リコールでも何でもすればいい」。追手門学院大の坂井学長も「改革は学長の執行責任を明確に する。責任も重くなる」と話し、独断に走らないように教員の意見を聞く場を定期的に設けるとしている。

ただ、学長の影響力が強まっていると見られる現象も現れている。追手門学院大は昨年、学部長選考について、学部選出の候補と学長が推す候補の中から理事会が選ぶ形に変更したところ、学部と学長で候補が異なった3学部は、いずれも学長側の候補が選ばれた。

文部科学省の中央教育審議会の部会では、こうしたガバナンス改革について今年6月から議論を始めており、年内にも方向性をまとめる方針だ。

部会の委員を務める金子元久・筑波大教授(高等教育論)は「日本の大学の最大の問題は、学部という形で学問領域が細分化されている点。教育研究の方針も 学部中心に決められ、社会のニーズに対応できていない面がある」と指摘。「教育の高度化といった重要な課題について、学部にこだわらずに幅広い観点から検 討できるよう、教授会や学長の在り方を見直していってはどうか」と話す。

(大西史晃)

 

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