大学入試改革 望ましい制度へ議論を『秋田魁新報』社説 2013年6月8日付

『秋田魁新報』社説 2013年6月8日付

大学入試改革 望ましい制度へ議論を

 大学入試制度が大きく変わる可能性が出てきた。現行の大学入試センター試験を廃止し、基礎学力の定着度を測る「到達度テスト」への転換が検討されている。文部科学省は早ければ5年後の導入も視野に入れているというが、制度変更は教育全体に大きな影響を及ぼすだけに十分な議論が必要だ。

 1979年に始まった共通1次試験、それに続くセンター試験は合わせて30年以上続くが、一発勝負の弊害を指摘する声や、1点刻みで得点を競うため知識偏重に陥っているなどとの批判があった。到達度テストは高校在学中に23回受験し、最も良い成績を受験に利用。各大学では2次試験で筆記のほか面接や論文なども組み合わせることを想定している。

 1回のテストによる合否でなく、地道な基礎学力での判定に軸足を移す狙いがあるのだろうが、現行制度でも2次試験など複数受験の機会が担保されている。センター試験廃止ありきの議論のようにも受け取ることができ、新制度創設には疑問も残る。

 大学生の学力不足、知識不足を嘆く声は強いが、近年、若者たちが指摘されている最大の問題点は何だろう。コミュニケーション能力の不足や、海外への留学者減少などに象徴される内向き志向、課題解決能力の欠如などではなかったか。

 一定レベルの知力、学力の必要性は当然として、実社会で生きていく力、社会が求める能力や人間力を育む高等教育のシステムづくりにもっと力を入れるべきではないだろうか。将来の国の在り方を見据え、求められる人間像を実現させるための大学教育であり、それに向けた入試制度であってもらいたい。

 そもそも大学の改革を行わず、入試制度だけを見直しても意味がない。1995年度に565校だった大学は、2012年度には783校に増加。大学全入どころか私立大の約半数は定員割れとなるなど、大学の質の問題もクローズアップされている。既存の大学の教育改革も同時に進める必要がある。

 到達度テストが導入されれば、高校生が試験対策に長期間追われる恐れも出てくる。多感な思春期に人間性を育む教育や高校生活を確保できるだろうか。学習塾や予備校など受験産業はビジネスチャンスが増えると見ているといい、高校生の負担は逆に増す可能性もある。高校側も受験対策や学校行事の見直しを迫られるだろう。

 制度に「完全」はあり得ない。常に現状を見直し、より望ましいシステムを考えていく姿勢は大切だ。教育は国家百年の大計といわれる。大学入試制度に関しては受験生や家族の関心も高く、高校教育への影響も少なくない。それ故にメリット、デメリットをしっかり見極める必要がある。専門家や教育現場の声を十分聞くと同時に、国民への丁寧な説明も欠かせない。

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