法曹養成制度 理念を維持し将来像を『北海道新聞』社説2013年4月11日付

『北海道新聞』社説2013年4月11日付

法曹養成制度 理念を維持し将来像を

 弁護士を増やし、紛争解決の助言など法律サービスを市民が利用しやすくするという司法制度改革の理念の一つを揺るがす内容だ。

 法曹人口などの在り方を論議する政府の法曹養成制度検討会議は、司法試験合格者を年間3千人程度とした政府の数値目標の撤回を柱とする中間提言をまとめた。

 国民の意見公募を経て、7月までに最終提言を出す。

 目標は2002年、政府が閣議決定した司法制度改革推進計画に盛り込まれた。だが、司法試験合格者は年間2千人程度にとどまる一方、訴訟など弁護士の仕事は想定ほどは増えず、就職難が深刻化している。

 年間千人前後だった合格者を急増させたことによるひずみと言える。

 問題は、何らかの修正が要るのに新たな目標を設けない、という姿勢だ。改革実施の基盤となる法曹人口の目標をなくせば改革頓挫の懸念が生じる。法律サービスを利用する側の立場で再検討を求めたい。

 裁判迅速化や裁判以外の紛争解決手段の拡充、弁護士の都市部偏在の解消など課題は多く、法曹人口の増加が必要であることに変わりない。

 改革の実施状況と今後の見通しから、どの程度の法曹人口を確保しなければならないか、その年次目標を示すべきだ。

 見過ごせない点はまだある。合格率などが著しく低い法科大学院に定員削減や統廃合を促す対応だ。

 補助金削減に加え、裁判官や検察官の教員としての派遣を見直すべきだとし、改善の見込みがない場合の「新たな法的措置」検討の必要性を挙げた。

 専門職大学院とはいえ、合格率の低さで、こうした措置を取るべきではない。不利益を被るのは学生だからだ。社会人を受け入れている大学院などへの配慮も不可欠だ。

 心配なのは法科大学院の志願減だ。学費と司法試験合格後の司法修習中の生活費など経済的負担は大きく、法曹資格を得ても将来が見通せない現実も背景にあるとされる。

 検討会議は最終提言で、こうした問題解決の方向性と新たなビジョンを打ち出すべきだ。このままだと人材が集まらなくなる。

 弁護士会の協力も欠かせない。

 新人弁護士をめぐっては、採用してくれる事務所がなく、本来は一定期間、必要な先輩弁護士の指導が受けられない問題も生じているが、その対策を考えることが求められる。

 報酬基準が分かりにくいなど市民にとって敷居が高い現状を改める。司法過疎地を含め、市民が法律サービスを利用しやすい環境をつくる。こんな課題に真正面から取り組み、新時代の弁護士像を示してほしい。

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