司法制度改革 弁護士数だけの問題か 『信濃毎日新聞』社説2013年4月11日付

『信濃毎日新聞』社説2013年4月11日付

司法制度改革 弁護士数だけの問題か 

 政府の法曹養成制度検討会議が、司法試験の合格者を「年間3千人程度」とする政府計画の撤回を柱とした中間提言案を了承した。

 法曹(裁判官、検察官、弁護士)の8割以上を占めるのが弁護士。その大幅増員に歯止めをかけることになる。ただ、県内を含め「弁護士過疎」が解消されたとは言い難い。郡部にも弁護士が事務所を構えられる環境づくりを進める必要がある。

 「年間3千人」は2001年に司法制度改革審議会がまとめた最終意見書の中で示され、翌年、閣議決定された。当時の司法試験合格者数を段階を追って3倍にする計画だった。

 規制緩和などを背景に社会のトラブルの解決を法廷に求める傾向が強まり、裁判の迅速化が課題になっていた。先進諸国に比べ法律家1人当たりの人口が極端に多いという事情もあった。増員による質の確保のため法科大学院も各地に整備された。

 だが、新司法試験の合格者は2007年以降、約2千人にとどまっている。検討会議は今回、「3千人」は現実性を欠くと判断。数値目標は設けないのが相当とした。司法制度改革の大きな看板が下ろされる。さらに法科大学院の定員削減や統廃合にも言及した。

 日弁連によると、全国の弁護士の数は昨年3月時点で約3万2千人。10年で約1・7倍の増加だ。県内の弁護士も1日現在、212人で10年で約1・8倍に増えている。若手弁護士からは「仕事がなくて困っている」「事務所に就職できない」との声も聞かれる。

 弁護士は全体数で増えても、地域偏在はあまり変わっていない。県内の弁護士も長野、松本市などの都市部に集中。今も全77市町村の8割近くに弁護士事務所がない。長野市で最近独立した弁護士は「郡部は需要が見込めず、リスクが大きい」と話す。

 飯田市の山あい、南信濃地区でことし1月、車の中から親子4人の遺体が見つかった。遺書があり、警察は心中とみている。地元住民に多額の借金を重ねていたという。住民の間からは「早く弁護士らに相談していれば、こんな事態は防げたかもしれない」と悔やむ声が出ている。

 「弁護士過疎」の解消には、事務所の開設資金を支給する日弁連の支援制度などをさらに広げる必要がある。同時に、依頼したくてもお金がないという潜在的な需要に応えるため、弁護士費用などを立て替える法律扶助制度を周知、充実させることも欠かせない。

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