法曹人口数値目標 見直しに地方の視点を『秋田魁新報』社説2013年4月12日付

『秋田魁新報』社説2013年4月12日付

法曹人口数値目標 見直しに地方の視点を

 司法試験の合格者数を「年間3千人程度」とする政府の数値目標が、撤回されることになった。数値目標の閣議決定以来、約10年の歳月をかけても目標を達成できなかったのであり、制度設計に問題があったと指摘せざるを得ない。目標と実際の法曹人口がなぜ大幅に乖離(かいり)したのかを、詳細に検証しなければならない。

 政府は2002年、多くても年間千人だった合格者を「10年ごろには3千人程度に増やす」とした。しかし、2千人程度で頭打ちとなっているのが現状であり、政府の法曹検討会議は今回、「現実性を欠く」として中間提言に目標撤回を盛り込んだ。新たな目標を示さなかったことには不満も出た。目標は確かに必要だが、十分な検証もないまま提示するのは拙速であり、現場を混乱させるだけだ。

 司法制度改革が目指す弁護士過疎地の解消と、全国にあまねく「法の支配」を実現させるという理念に、異を唱える者はあるまい。問われているのは、より実情に即した制度の見直しということだ。

 本県の弁護士は現在73人。02年の49人から1・5倍に増えた。秋田地裁支部のある全ての地域に弁護士がおり、本県の弁護士過疎地問題は、ほぼ解消されたと言えよう。秋田弁護士会は「毎年数人が増え、バランスが取れている状態」とみており、その点では、法曹人口増加策の恩恵を受けたことになる。

 全国的に見れば、法曹人口が増加したことで、司法修習を終えても弁護士事務所などに就職できないという厳しい現実がある。弁護士事務所に入って実務経験を積まない限り、一人前の弁護士になることは難しい。法曹関係者も「実務経験のない合格者ばかりが増えるのは問題だ」と指摘している。

 中間提言は70校を超す法科大学院の乱立を受け、統廃合も必要だとした。学生が増える一方、教員不足による教育レベルのばらつきもあり、合格率20%台で低迷しているからだ。東北で法科大学院がある東北大と東北学院大のうち、東北学院大は来年度の入学者募集停止を表明した。補助金カットなどの対象となる低迷校からは、「地方切り捨て」との反発の声もある。統廃合では、新たな弁護士過疎地が生じないようにするとともに、現在学んでいる学生に不利益がないよう配慮しなければならない。

 私たちの暮らす社会は隅々まで法によって規定されている。それだけに、憲法をはじめとするさまざまな法律に精通し、実務経験豊かな法曹が増えることは歓迎すべきことだ。社会正義の実現のため、弁護士が近くにいることは大切な条件の一つであり、法に対する市民の意識向上にも結び付く。「法の支配」を通じて、地方をどう豊かにすることができるのか。法曹人口を、そうした観点から見直すことも必要だろう。

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