人勧実施見送り 給与減と「基本権」は分離せよ 『読売新聞』社説2011年10月30日付

 『読売新聞』社説2011年10月30日付

人勧実施見送り 給与減と「基本権」は分離せよ

 政府は、国家公務員給与を平均0・23%引き下げるとした今年度の人事院勧告(人勧)の実施見送りを閣議決定した。

 人勧の完全実施を見送るのは1982年度以来となる。政府は、復興財源捻出のため2013年度末まで平均7・8%削減する国家公務員給与削減法案の早期成立を優先した。 

 人件費の削減額は、来年度の場合、人勧実施で120億円、削減法案なら2900億円だ。政府は削減法案が「人勧の趣旨も内包している」と説明している。 

 財政状況は厳しい。復興財源の確保を目的として増税を求める以上、国家公務員の給与は人勧より削減する必要がある。時間的な制約もある。政府が削減法案の成立を目指すのは、やむを得まい。 

 ただし、ハードルは多い。 

 一つは、人事院が、人勧見送りは憲法に抵触すると反発し、野党側も慎重に構えていることだ。 

 人勧は、国家公務員が憲法の規定する労働基本権を制約されていることの代償措置である。公務員に基本権が付与されていない段階で、人勧に基づかず給与を削減することの是非が問われている。 

 内閣法制局長官は国会で「憲法の趣旨に適合しないものであると断定することはできない」と答弁した。政府は、諸般の事情を丁寧に説明しなければならない。 

 二つ目は、政府が、削減法案とセットで国家公務員制度改革関連法案の成立を求めていることだ。民主党の支持団体である連合の強い意向が背景にある。 

 改革関連法案は、労働基本権の一部である協約締結権を一般の国家公務員に与え、給与などを労使交渉で決定可能にするのが柱だ。だが、民間企業と違って、労使双方に経営感覚が薄いため、“お手盛り”の交渉になりかねない。 

 改革関連法案には、公務員への基本権付与の是非をはじめ、人事院の廃止や公務員庁の新設など重要な論点が多数含まれている。拙速な改革は避けねばならない。 

 この際、削減法案の審議と切り離し、改革関連法案は時間をかけて議論を尽くすべきだ。 

 三つ目は、地方公務員の給与削減の問題だ。連合は人件費削減を地方公務員に波及させないことも政府に要求している。日教組や自治労の意向が働いたのだろう。 

 だが、国家公務員の給与が大幅に削減されれば地方公務員の給与水準の方が高くなる。民主党の前原政調会長は、地方公務員の給与削減の必要性に言及した。この問題からも逃げてはならない。

 

 

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