法科大学院 制度の空洞化を見直せ 『信濃毎日新聞』社説 2014年2月6日付

『信濃毎日新聞』社説 2014年2月6日付

法科大学院 制度の空洞化を見直せ

相談するなら人の痛みが分かり、幅広い視野を持った弁護士がいい。多くの人がそう思うだろう。

旧来の1回の司法試験による法曹(弁護士、検察官、裁判官)の選抜は、受験技術優先の傾向が顕著といわれた。そこで司法試験の前に広い分野の人たちを対象に実務の素養を学ばせることにした。それが法科大学院である。

ことしは創設10年。新制度は根本的な見直しが必要だ。

入学者の募集を停止する大学院が相次ぎ、廃止する所も出ているためだ。2005年開設の信州大も15年度以降の入学者の募集を停止する方向で検討している。停止すれば、全国に74校あった大学院のうち既に廃止された1校を含め全国で10例目になる。

主な理由は、志願者の減少と司法試験合格者の低迷だ。信大の場合、40人だった定員を段階的に減らし18人にしたが、本年度の入学者は10人にとどまった。全国でも9割余の大学院が定員割れだ。

志願者減少は、法曹希望者自体が減っていることもあるが、法科大学院を経ないで司法試験の受験資格を得る予備試験を選択する人が増えたのが大きな要因だ。

予備試験は、経済的事情で法科大学院に通えない人たちの例外的措置として11年度に始まった。大学院修了者と同等の学識、応用能力などを判定するとしている。

受験者全員の経済的事情を測るのは困難だとして、誰でも受験できるようにした。このため、3年間(法学系学部卒業者は2年)大学院に通うより、時間と費用を節約できるとの見方が広がった。

昨年、全国の法科大学院の志願者が約1万4千人だったのに対し、予備試験の志願者は1万1千人余と肩を並べるほどになり、「例外」とは呼べなくなった。法科大学院在学中に予備試験を受験するという、本来の趣旨と矛盾する学生も少なくない。

しかも、司法試験の合格率は昨年の場合、法科大学院修了生が平均25・8%なのに対し、予備試験を経た受験者は71・9%と大幅に上回っている。司法試験で問う中身が旧来とあまり変わらず、大学院に行かなくても十分太刀打ちできることを意味している。

これでは、受験技術偏重を排する法科大学院創設の意義は空洞化してしまう。多様な人が法曹になるため、経済的事情を考慮するのは大切だ。それが抜け道にならないよう、授業料の減免や奨学金の拡充など大学院進学に向けた配慮を厚くするべきだ。

 

 

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