NHKニュース配信記事 2014年1月17日付
大学入試改革 各大学の評価割れる
検討が進められている大学入試改革について、NHKが全国の主な大学、およそ170校にアンケートを行ったところ、「どちらかと言えば効果が大きい」と答えた大学が半数近くを占めた一方で、「弊害が大きい」という大学も30%あり、評価が割れていることが分かりました。
大学入試を巡っては、去年、政府の教育再生実行会議が大学入試センター試験にかえて、複数回受験できる新たなテストを導入することや、面接や論文で能力や意欲を総合的に評価することなど改革の提言をまとめ、今後、文部科学省の審議会で議論されることになっています。
これについてNHKは、全国の主な国公私立大学201校を対象にアンケートを行い、84%に当たる168校から回答を得ました。
入試改革の影響を尋ねたところ、「どちらかと言えば効果が大きい」と答えた大学は78校と46%を占めた一方で、「どちらかと言えば弊害が大きい」という大学も52校と31%あり、評価が割れていることが分かりました。
すべての大学に入試改革の“効果”を複数回答で尋ねたところ、「多様な学生を獲得できる」が最も多く49%、次いで「受験生に複数のチャンスがある」が48%でした。
また、“弊害”については「面接や論文への対応が困難」が最も多く56%、「人物本位で合否を決める弊害」を指摘する大学も32%ありました。
なかでも、面接などを通して能力や意欲の判定を重視することについて「試験の公平性が担保できない」とか、「人物本位の入試で不合格となった場合には、学力試験以上の心理的負担をかけることになるのでないか」といった記述が相次ぎ、大学のとまどいが浮き彫りとなっています。
大学入試改革とは
大学入試改革は、知識偏重の選抜から能力や意欲などを総合的に評価するものに転換しようと、検討が進められています。
去年10月に、政府の教育再生実行会議がまとめた提言では、現在の大学入試センター試験に替えて、複数回受験できる新たな試験を導入し、成績は1点刻みではなく段階別におおまかに示すことや、高校在学中に、複数回受けることの出来るテストを創設して、基礎的な学習の到達度を把握することなどが盛り込まれています。
そして各大学は、養成する人材の姿を明確にしたうえで、面接や論文、高校の推薦書、さらには生徒会活動や部活動、ボランティアや海外留学などの取り組みをみて、生徒の能力や意欲、適性を多面的、総合的に評価するよう求めています。
この提言を受けて今後、中教審=中央教育審議会で、実施方法や体制などについて検討が行われ、実際の導入は5、6年先になる見通しです。
愛媛大学「効果大きい」
大学入試改革について「どちらかと言えば効果が大きい」と答えた大学のひとつ、愛媛大学は、多様な学生を獲得できるようになると期待しています。
背景には、急速に進む少子化への危機感があると言います。
愛媛大学の学生数は、法文学部や理学部など6つの学部で合わせておよそ8400人。
志願者数はここ10年ほど横ばいですが、少子化が進む中、数年後には減少に転じる見通しです。
定員を満たすために合格ラインを下げざるを得なくなり、大学のレベルを保てなくなるおそれがあるとして、学力だけでなく能力や意欲の高い若者を獲得する仕組みを整えたいと考えています。
去年からは、愛媛大学を含む四国の5つの国立大学が合同で、新たな入試制度の検討を始めています。
先週、各大学の担当者が集まって開かれた会議では、「四国に優秀な学生を呼び込めるような選抜方法を考えなければならない」といった意見が出されていました。
5つの大学でつくる「四国地区国立大学連合アドミッションセンター」の井上敏憲センター長は、「2018年には18歳人口が減少に転じる。四国は他の地域に比べて少子化の進行が早いため、特に危機感が強い。“優秀な学生”の定義を見直して、成績以外にも人物や高校での活動を評価する方法を開発していきたい」と話しています。
明治大学「弊害大きい」
大学入試改革について「どちらかと言えば弊害が大きい」と答えた明治大学は、新入生の学力低下や判定の平等性が担保できないといった問題を指摘しています。
明治大学では昨年度の一般入試の志願者数がおよそ11万人と、4年連続で全国の大学の中で最も多くなりました。
このため10ある学部の受験日をすべてずらし、3つのキャンパスを試験会場にして対応しています。
ペーパーテストではなく面接や小論文などで評価する、いわゆるAO入試を半分の学部で導入していましたが、入学後に学力不足が課題になるケースがあり、縮小する方向です。
今年度実施の入試では2学部に、来年度は1学部のみとなり、学力を把握する入試に転換すると言います。
入試改革の提言が、面接や高校での活動などを通して能力や意欲を評価するよう求めていることについて、明治大学の竹本田持入学センター長は「評価の基準をどう設けるのか。何分面接すれば十分か決めるだけでも難しいうえ、仮に10分としても10万人を超える受験生を面接するのは不可能だ。今のような1点刻みの合否判定には問題もあるが、受験生が自己採点を行って客観的に振り返ることのできる制度のほうが公平、公正だ」と話しています。