医療研究不正 信頼回復へ再発防止策徹底を 『愛媛新聞』社説 2013年12月29日付

『愛媛新聞』社説 2013年12月29日付

医療研究不正 信頼回復へ再発防止策徹底を

今年、医療研究をめぐる不正や疑惑が数多く発覚した。

東京大の元教授は、51本の論文に不正な画像データを使用。製薬会社社員は所属を示さず、自社の子宮頸(けい)がんワクチンの論文を発表し、その論文が接種の是非の検討の場で用いられた。国が大学などに求めた自主調査では、2009年4月以降の臨床研究約2万4千件中、指針違反などの不適切事例が137件見つかった。いずれも氷山の一角では、との疑念は拭えない。

「研究不正」は日本の医療の信頼を大きく揺るがし、生命や健康の安全さえ脅かしかねない。真相究明と再発防止が急務だが、道のりは遠い。

降圧剤ディオバンの臨床研究データ操作問題で、厚生労働省はようやく今月、販売元の製薬会社ノバルティスファーマなどを薬事法違反(誇大広告)の疑いで刑事告発する方針を固めた。

ノ社は組織的関与を否定。誰が実際にデータ操作したのかも分かっていない。強制力のない調査は既に手詰まりで刑事告発への転換は遅きに失した感も否めないが、全容の徹底解明を強く求めたい。

臨床研究を実施し、ディオバンに有利な論文を発表した5大学の調査も出そろった。東京慈恵医大と京都府立医大は、データ操作があったとして論文を撤回。滋賀医大は数値の不一致が10%もあり「科学的論文としては不適切」と発表した。名古屋大と千葉大は、数値のずれはあるが「結論は同じ」「意図的な操作はなかった」としている。

「単なる入力ミス。不正ではない」「主治医の勘違いで故意ではない」―食品偽装問題にも似た各大学の言い訳にはあきれる。ずさんな研究管理体制を放置し、臨床研究に協力した約3千人もの患者を裏切り、誤ったデータを基にノ社の「広告」に加担した大学の責任は、極めて重い。

利害関係のある製薬会社がヒトやカネを出し、有形無形の研究支援をしてきたことは周知の事実。ノ社も5大学に計11億3290万円もの奨学寄付金を提供している。

日本では2年前から、製薬業界の自主的な提供資金の情報公開が始まったが、まだ不十分。現状を鑑みれば、利益相反関係の明示徹底や、公的な監視機関の設置、罰則強化など、良心任せでない不正防止の仕組みが欠かせない。

現在、薬の承認審査関連以外の臨床研究には、強制力のない倫理指針しかない。厚労省は来年秋までに全臨床研究の法規制を検討するという。安倍政権は「医療の産業化」に積極的だが、その前にまず安全な仕組みを整えなければ不正はなくならず、日本の医療への評価も損なわれよう。国や企業の利益のためではなく、患者のために研究があることを忘れてはならない。

 

 

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