農業を強くする (4)現場と大学 学び合う 『読売新聞』 2013年12月25日付

『読売新聞』 2013年12月25日付

農業を強くする

(4)現場と大学 学び合う

遺伝子組み換えによる品種改良など、IT技術の進展に伴い、農学の世界でもコンピューターを使った研究が進む。

その一方で、基本である「土に帰る」ことの大切さが最近、見直されている。

「これは売れないな」。11月中旬、北海道富良野市の畑で、農家の男性(57)が形の良い白い百合(ゆり)根を手に嘆いた。芯の部分がほんの少し茶色に。茎が風に揺れることで、茎と接する部分が変色したのだという。

「そんなことで?」と驚いたのは、北海道大学の大学院生と教員の一行だ。3年前から同大が帯広畜産大、酪農学園大と共同で行う院生対象の授業「食の安全・安心基盤学」の受講者たちで、商品となる百合根の選別方法などを学びに来ていた。

授業の背景には、農業の実態を知らない農学部生の増加がある。学部での教育課程が近年、研究重視に傾いた結果、「机上で農業ができると勘違いする学生がいる」と嘆く教員もいるほど。「農業を強くする人材の育成は、やはり現場でしかない」。20年以上も自治体とともに農業振興に腐心してきた北海道大の坂下明彦教授(59)の発案で、授業は始まった。

農家での宿泊研修や、収穫物をキャンパスで販売する「マルシェ(市場)」開催など、生産から流通の実態を学ぶ。受け皿となる農家の数に限界があり、大学院での実施にとどまるが、「院生は面白いぐらい変わる」と坂下教授。事実、修士2年の松平将典さん(25)は「農業の活性化に関わりたい」と抱負を語る。「もっと良いものを」と意欲的な農家の人たちの素顔に触発されたという。

農家自身を育てる試みもある。佐賀大学は大学院に3年前、「農業技術経営管理士」育成のコースを開設した。高度な農業技術を持ち、経営感覚の優れた地域農業のリーダー養成のため、生産管理や食品化学、経営管理などの学習を年間150時間以上も課すハードなコースで、農家だけでなく広く社会人全般に門戸を開いた。

様々な業種の人たちを集め、交流を通じて学びを深める目的からだ。食品会社の社員や銀行員など、予想以上に多彩な受講者が参加し、交流によって高付加価値の商品も生まれた。

その一つが、佐賀市のブランド作物「光樹(こうじゅ)とまと」を使ったジュース「しずくシリーズ」。500ミリ・リットル入りの1本が5000円だ。開発に携わった育成講座1期生の農業、古賀信一郎さん(43)は「ハウスの中では会えない人たちに会い、刺激になった」と話す。どうしたら消費者に高付加価値の商品を買ってもらえるか、教員や受講生らとの議論が勉強になったという。

講座を担う内海修一特任准教授(64)は「大学を地域に開き、農業のリーダーを育成する。それがこれからの農学部の役割だ」と強調している。

 

 

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