私立大6割で収支改善 主要129大学の2012年度決算『日本経済新聞』2013年12月23日付

『日本経済新聞』2013年12月23日付

私立大6割で収支改善 主要129大学の2012年度決算

退職給付の減少寄与 国立は悪化7割、交付金減響く

国立大学と主な私立大学の合計129大学の2012年度決算は6割弱に当たる74大学の最終的な損益が11年度より悪化したことが分かった。国の交付金削減や病院など付属施設の開発費用の増加が響いた。一方、退職給付費用の減少を背景に私立大は約6割で損益が改善した。今後、少子化で取り巻く環境は厳しさを増す。教育の質向上につながる投資を賄うため安定的な収益基盤の必要性を指摘する声もある。

全国の86国立大(大学院大学含む)と、大学・大学院などの合計学生数が1万人超などの基準で主要43私立大を絞り込み集計した(傘下の小中校などの経営成績も含む)。

■異なる構造

経営内容を見る上で、まず国立大と私立大では収支構造が大きく異なる点に注意が必要だ。

国立大は収入の3~4割程度を国からの交付金が占める。ほかに授業料や入学金、付属病院の診療報酬などを含めたものが企業の売上高に当たる「経常収益」だ。ここから人件費や研究経費など「経常費用」を引いて、臨時の損益などを合算したものが当期総利益(損失)だ。

国立大の場合、基本的に収支が均衡するように予算は組まれるが、コスト節減や医療収入の増加で利益が増えたり、施設の再開発費用などで損失が出たりする。

86国立大の7割弱に当たる57大学の当期総損益が11年度より悪化した。大きな要因は付属病院の再開発。悪化幅が大きかった宮崎大や群馬大では病棟改修などに伴う費用増が重荷となった。国立大の法人化以降、国からの交付金が削減傾向にあることも響いた。

外来患者や手術件数の増加に伴い病院収入が増えた名古屋大や弘前大など29大学は損益が改善した。こうして稼いだ利益は医療機器の更新などに充てられることが多い。

一方、私立大は収入の半分以上を入学金や授業料が占め、この比率が1割程度の国立大とは構造が異なる。補助金や寄付金なども加えた総収入から、費用を示す「消費支出」の合計額を引いたものが帰属収支差額だ。

43私立大の総収入の合計は11年度比で2%減ったものの、帰属収支差額は全体の約6割の26大学で改善、国立とは明暗を分けた。大きな要因の一つは退職給付費用の減少だ。11年度に文部科学省の要請で、職員の退職給与引当金を一括処理した日本大、明治大などで12年度の費用が大きく減少し、収支が改善した。

半面、17大学は寄付金減や校舎の新設・改修に伴う費用増などで損益が前年度より悪化した。11年度に保有地を売却した反動もあり、東京電機大などは赤字に転落した。

■地方私立は苦戦

今後の課題の一つは少子化による学生数減少への対応だ。文科省によると大学の在学者は13年度に約286万8900人(速報値)とピークの11年度から2万5000人ほど減少している。

今回、集計した国立大や私立大は学生数など比較的規模の大きな大学が中心となっており、目立つほどのマイナス影響は出ていない。だが、帝国データバンクが在学者数が1万人を下回る大学も含めて私立452大学の11年度決算を分析したところ、ほぼ半数の227大学が10年度比で減収だった。特に地方の私立大学の苦戦が目立ったという。

大学は教育・研究機関であるため、利益追求は最終目的ではなく、過度な合理化などに走れば教育サービスの質低下を招く恐れもある。ただ、創造学園大を運営していた学校法人「堀越学園」(群馬県高崎市)が3月に経営悪化で、文科省に解散命令を出されるなどかつてない事例も出てきている。

教育サービスの質向上を図りつつ、安定した収益を出すことが従来以上に大学経営に求められている。大学経営に詳しい桜美林大大学院の高橋真義教授は「強みを持つ研究分野など独自色をアピールして学生を呼び込み、授業料収入を増やすなど経営安定化の取り組みが不可欠」と指摘している。

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