雇用環境の変化 奨学金返済で窮地に 『中日新聞』静岡版 2013年12月1日付

『中日新聞』静岡版 2013年12月1日付

雇用環境の変化 奨学金返済で窮地に

◆「突然の裁判通知書、延滞金加算」

就職難や非正規労働の増加など雇用環境の変化で、学生時代に借りた奨学金を返せない人が増えている。滞納者はある日突然、延滞金も含めた返済を厳しく迫られ、追い詰められる。返せない事情をなかなか配慮してもらえないことに、支援団体は奨学金制度の構造的問題を指摘する。

「誰も返さないとは言っていない。でも、あまりに酷だ」。浜松市内に住む男性(40)はやり場のない怒りに耐えるように、苦しい表情を浮かべた。

男性は県外の私立大に通い、日本育英会などいくつかの学生支援団体が合併した独立行政法人「日本学生支援機構」から四年間で総額約二百三十万円の奨学金を無利子で借り入れた。返済は年十三万円の十七回払いにした。

卒業後は、板前になるのが夢で料亭などで修業。当初の六年間は返済を続けたが、生活は苦しく、返済は滞るようになった。罪悪感もあったが、滞納して六年以上、督促はなく次第にその気持ちも薄れていった。

事態は二〇〇七年のある日、一変する。機構から「返済未済額百七十四万九千円を払わないと裁判となる」旨が書かれた通知書が届いた。あわてて機構に連絡して自らの経済状況を説明し、年十三万円の返済計画を、家賃などを除いた生活費五万円のうち毎月一万一千円を返す方法に切り替えた。

しかし、男性はその後四年近く支払いを続けた後で、元本が全く減っていないことを知った。入金一覧表を取り寄せると、〇七年十一月~一一年五月まで毎月払い続け、約五十万円を返したが、それは延滞金に充当されたにすぎなかったのだ。

機構から延滞金の説明はなかった。男性は「借りたのは自分。自業自得だが、延滞金がいつの間にか加算されたり、突然裁判すると言ってきたり弱い者いじめだ」と不信感を募らせている。

◆滞納者46%が無職

今年三月に弁護士や有識者らでつくった「奨学金問題対策全国会議」事務局長の岩重佳治弁護士(東京)は「雇用は不安定で返したくても返せない実情がある」と話し、制度の構造的問題を指摘する。

日本学生支援機構によると、滞納者のうち無職は46%、年収三百万円未満は83%。だが、二〇一二年度現在、百三十二万人に計一兆八百億円を貸与しており、うち滞納者は三十三万四千人、滞納額は九百二十五億円に上る。〇四年に独立行政法人化してから奨学金の原資の多くを企業から借りており、強硬な取り立てにならざるを得ない。

滞納者は延滞九カ月で裁判所へ支払い催促申し立てがされる。一〇年度の申立件数は五千八百二十七件だ。

機構の担当者は「返還が難しい時は、減額返還や返還期限猶予制度の活用を案内している」と説明する。しかし、滞納対策を債権回収会社に委託しており、個別事情が反映されにくい面もある。

全国会議は、所得に応じた無理のない返済計画や給付型奨学金の充実などを求めている。岩重弁護士は「親の経済状況に左右されず、真の教育機会の平等を確保してもらいたい」と訴える。

奨学金問題を考える「静岡県司法書士会・翔学(しょうがく)会」の中里功さん(40)=浜松市=は「奨学金は金融事業になっている」と現状を憂慮。同会では相談を受け付けている。問い合わせは、司法書士総合相談センターしずおか=電054(289)3704=へ。

(木原育子)

<日本学生支援機構> 2001年の特殊法人等改革基本法に基づき、前身の日本育英会が04年度に廃止され、改編された独立行政法人。育英会の奨学金制度は本来利子はつかず、国の財源で賄われていたが、財政悪化で有利子枠が創設され、07年度に民間資金の導入も始めた。学校教員になれば返済を免除される制度は1998年に廃止されている。

 

 

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