司法修習の無給化に批判 奨学金、貸与金が負担 『中日新聞』2013年11月22日付

『中日新聞』2013年11月22日付

司法修習の無給化に批判 奨学金、貸与金が負担

裁判官や検察官、弁護士になるために、司法試験合格者は一年間の司法修習が義務付けられているが、国は二〇一一年から修習期間中の給与支給(給費制)をやめた。司法試験受験には、法科大学院の修了が原則だ。学生時代に奨学金を借りる学生も増えており、「裕福な家庭の子しかなれなくなり、弱者の気持ちを理解できる法曹が育たない」と、批判が高まっている。

中部地方の男性弁護士(29)は、憧れの弁護士を目指し、親元を離れて国立大法学部に入学。同じ大学の大学院への進学を希望したが、「生活費がかかる」との理由で地元に戻り、国立大法科大学院へ通った。

学費や生活費のため、大学四年間は月約十四万円、大学院三年間は月九万円弱の奨学金を借り、七年間の総額は一千万円を超す。さらに司法修習中は給与がなく、国の貸与制度を利用して最高裁判所から月二十三万円を借りたため、「借金」は一年間で約三百万円増えた。修習は自宅から通ったが、交通費や参考書の購入も自己負担。修習に専念する義務があるためアルバイトはできず、貸与金がなければ生活できなかった。

修習中は借りたお金を工面して奨学金を返済。男性が利用した奨学金は有利子で、返済が遅れるほど返済総額が増えるので返済を急いだ。「借りたお金で借金を返す。多重債務者と同じことをやっていた。でも奨学金がなければ弁護士にはなれなかった」と話す。

昨年末に弁護士になり、以降は月約五万円の奨学金を返済。四年後には貸与金返済も始まり、月七万円以上の負担になる。

愛知県弁護士会の久野由詠(よしえ)弁護士(29)は「借金はしないで」という母の意向で、修習中の貸与金は借りず、貯金を切り崩して暮らした。修習中は毎日、昼食におにぎりを持参するなど節約したが、何か買う際は母に尋ねなければならなかった。

「修習中は実務に必要なことを学ばせてもらった」という。検察官や裁判官の視点を理解したことで、市民の権利を守る弁護士として役立つと考える。ただ、修習中は司法研修所の教官との懇親会が頻繁にあり、費用は自己負担。「少しでも実務の話を聞きたい気持ちは強く、できる限り出席したいが、経済的な理由で欠席する修習生もいた」と振り返る。

久野さんら各地の元修習生の弁護士たち二百十一人は、損害賠償を求めて八月に全国四地裁に提訴した。「給費制廃止は職業選択の自由や、文化的で最低限度の生活を保障する憲法に違反している」と主張している。

修習地は本人の希望がかなうとは限らず、自宅外に住む場合も。引っ越し費や修習中に裁判所などへ通う交通費も全て自己負担だ。修習の一環で二カ月利用する司法研修所の寮(埼玉県和光市)も合格者が増えたため、近年は入寮は抽選だ。外れてアパートを借りれば約二十万円の出費になるという。

訴訟の弁護団共同代表の宇都宮健児弁護士は、「私のように貧しい家庭に育った人が法曹になれなくなる。そうすると社会的、経済的弱者の権利を守る視点が後退してしまう」と危ぶんでいる。

◆修習と勉強で10時間超

二〇一一年十一月から司法修習を受けた司法修習生を対象に、日弁連が実施したアンケートによると、回答した七百十七人の修習時間は定時で一日平均七・三時間。これに加えて平日一・六時間、休日には一時間、実務修習のために活動。内容は判決文や訴状の起案や文献の調査、法律相談への立ち会いなど。さらに勉強会など、自己研さんのためにも時間を費やしていたことが分かった。

約三割は、経済的な不安や就職難などを理由に「修習の辞退を考えたことがある」と回答。生活費の原資が「最高裁からの貸与金」とした修習生は85%に上る。

(稲熊美樹)

 

 

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