大学入試改革 理念先行で混乱招くな『秋田魁新報』社説 2013年11月2日付

『秋田魁新報』社説 2013年11月2日付

大学入試改革 理念先行で混乱招くな

政府の教育再生実行会議が、「達成度テスト」(仮称)の創設などを柱とする大学入試改革の提言を打ち出した。提言内容からはさまざまな課題も浮かび上がってくる。理念先行で教育現場や受験生を混乱させないよう、丁寧な議論を積み重ねていくことが必要だ。

提言は現行の大学入試センター試験を達成度テストに衣替えすることを唱える。「1点刻み」「一発勝負」から脱却し、「人物重視」とする狙い。現行試験の弊害を踏まえ、改善を目指している点は評価したい。

達成度テストは「発展レベル」と「基礎レベル」の2本立て。「発展レベル」の方がセンター試験に替わる共通試験で、1点刻みではなく一定幅の段階評価とする。「基礎レベル」は高校在学中に学習到達度を測る新たなテスト。推薦入試などで参考にされる。

いずれも複数回受験できる制度設計を目指す。さらに共通試験後に行われる各大学の2次試験は、面接や論文を重視するよう求めるとしている。

導入は5年以上先とみられ、実施主体となる組織や、対象教科などは今後、中教審で具体的に審議される。しかし現段階で既に多くの困難や疑問点が指摘されている。実現への道のりは相当遠いと言わざるを得ない。

試験の複数回実施については、現場の負担が大き過ぎるため困難という声がある。さらに高校側は試験時期の前倒しによる受験準備早期化を懸念する。部活動や学校行事への影響は避けられず、高校教育の空洞化が危惧されるという。

大学側には、2次試験で面接や論文の重視を求められることへの不安が大きい。入学者の多い大学には負担が重過ぎるという意見だ。留学やボランティア活動の評価を取り入れるというが、大学が的確に人物を見極めることができるのかという疑問もある。

「多面的、総合的な評価に転換」「ペーパーのみの選抜で、若者の能力を伸ばすチャンスを失ってはならない」。大学入試改革に関する安倍晋三首相の発言からは、学力偏重からの脱却を目指す決意が伝わってくる。ただ最終的な目的が人材育成にあるなら、大学の入り口だけの改革では済まないはずだ。

教育再生実行会議は大学の卒業認定を厳しくして「出口管理」を強めることも提言。留年が増えて定員を超過した場合、大学への補助金などが減額される現在の制度を緩和するよう求めた。しかし、それが大学教育の充実につながるかどうかは不透明だ。

高校生が受験対策のためのボランティア活動、面接技術習得に追われるような事態は避けなくてはならない。人物重視も客観性が保たれなければ公平性を欠くことになる。そうした懸念が払拭(ふっしょく)されないまま、大学入試改革を性急に進めることがあってはならない。

 

 

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