『東京新聞』社説 2013年11月2日付
入試改革 大学こそ教育力鍛えよ
政府の教育再生実行会議が提言した大学入試の仕組みは、試験漬けの高校生活を招きかねない。問題視される大学生の能力低下には大学システムに由来するものもあり、大学教育の改革が先決だ。
提言の最大の柱は、大学入試センター試験に代えて、基礎と発展の二通りから成る達成度テストを創設することだ。高校在学中にそれぞれ二度、三度と受験できるような仕組みを想定している。
基礎テストでは高校生の日ごろの学習の定着度を確かめる。推薦やAO(アドミッション・オフィス)の入試で参考にするよう促した。
推薦やAO入試では学力不問の形式が多く、入学者は全体の四割を占める。大学生の学力低下の要因という指摘があり、高校時代からやる気を引き出す狙いだ。
発展テストは一般入試に利用する。センター試験とは違い、成績は一点刻みではなく、一定幅のランク別に示す。二次試験では論文や面接、高校での活動実績を踏まえ、人物本位の評価を求めた。
知識の蓄積や瞬時の計算は、もはやコンピューターが担う時代だ。グローバル化や少子高齢化が進み、先行き不透明の社会では自ら問題意識を育み、解決の道筋を描く能力が欠かせない。
従来のペーパーテストでは一点差で合否が分かれたり、暗記力重視に偏ったりしがちだ。数字のみの物差しでは測れない意欲や適性、潜在能力が見落とされる恐れが強い。多面的に人物の品定めをするという発想は自然だろう。
提言のそんな危機感にはうなずける面もある。とはいえ、主体性や独創性に富んだ人材を育てたり、才能を発掘したりするのに達成度テストは役立つだろうか。
一点を争う一発勝負の試験では体調や天候、トラブルに結果が左右されやすい。実力を試す機会が多く与えられるのは、受験生にとって利点かもしれない。
しかし、高校生活を通じて受験対策一色にならないか気がかりだ。スポーツや芸術、ボランティアといった活動も、入試目当てになれば広い視野が養えるかどうか。二次試験での人物評価も難しい。公正かつ公平にできるか不安が残る。
安定経営を優先させて学生確保に走る限り、入試制度を改革しても有能な人材を見いだしたり、育成したりできないだろう。入学も卒業も容易になってしまえば、大学の価値は損なわれる。大学こそ率先して教育力を磨くべきだ。