法曹養成 何のための予備試験か 『東京新聞』社説 2013年11月1日付

『東京新聞』社説 2013年11月1日付

法曹養成 何のための予備試験か

今年の司法試験では、法科大学院を修了しない人の合格者が激増した。本来は社会人らを想定した予備試験が、現役学生の“特急コース”になっているのだ。放置すれば、大学院制度が空洞化する。

予備試験はもともと経済的事情で法科大学院に進めない人や、実社会で経験を積んだ人にも法曹資格を得るための道としてつくられた仕組みだ。大学院修了者と同等の学識や、応用能力、法律実務の基礎的素養を判定される。

二千四十九人の合格者が出た今年の司法試験では、予備試験組から百二十人が難関を通った。

昨年は五十八人であったから、一気に倍増したわけだ。

とくに注目したいのが、大学生が四十人、法科大学院生が三十四人にのぼることだ。合わせると、七十四人である。全員が経済的に困窮しているとは限らない。むしろ、法科大学院を経ないで、司法試験に合格する“特急コース”と化しているとみられている。

二十歳から二十四歳の合格者が六十四人に達することからも、それが推察される。合格率も70%超の高い水準だ。「真のエリートコース」とも呼ばれる現状だ。

それに比べて、法科大学院を経た人の合格率は20%台にとどまり、低迷を続ける。このままだと今後、予備試験組の合格者が爆発的に増える可能性が極めて高い。大学院組と予備試験組との合格割合を均衡させることが、閣議決定されているからだ。必然的に大学院制度の空洞化につながる。

では、実際に実社会から狭き門を通った人を数えると、公務員や会社員、自営業を合わせても、二十五人にとどまる。本来の予備試験の趣旨どおりに運用されているとは言い難い。

しかも、現役学生の場合、親の年収などのチェックが全く行われていない。「経済的事情」の約束事が空文化しているのは問題である。予備試験はあくまで例外的制度であり、年齢制限や、現役学生には受験させないなどの対策を考えてはどうか。

“特急コース”も認める意見もあるだろう。だが、司法試験という一発勝負の「点」での選抜ではなく、大学院を通じた「プロセス」で、法曹人を養成するよう転換したのだ。「点」への逆戻りを許しては、司法制度改革の意義がかすんでしまう。

“エリート”の選別に予備試験が使われる現状は、新制度の逸脱ではないだろうか。

 

 

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