『読売新聞』社説 2013年11月1日付
大学入試改革 人材の発掘・育成に繋がるか
大学入試制度の改革には、多大なコストがかかる。十分な効果が得られるのか、慎重な見極めが必要である。
政府の教育再生実行会議が、大学入試改革に関する提言をまとめた。1990年から続く大学入試センター試験に代わり、難易度の異なる「基礎」「発展」の2種類の達成度テストを新設するのがポイントだ。
「基礎」テストは、高校生の基礎学力を調べる。提言は、この結果を推薦入試や、面接などによるAO(アドミッション・オフィス)入試で活用するよう求めた。
推薦・AO入試の増加で、高校生の学習意欲が減退し、学力低下を招いているとの指摘がある。新たなテストが高校生のやる気を引き出し、学力向上に結び付けば、導入する意味はあろう。
「発展」テストは、大学進学に必要な学力の判定が目的だ。センター試験と異なり、結果は1点刻みの点数ではなく、大まかなランクに分けて示される。
各大学は、これを基礎資料とした上で、論文や集団討論などで独自選考を行い、高校時代の活動実績も勘案して合格者を決める。
面接官に学外の企業人を起用することも提言に盛り込まれた。
筆記試験の点数で合否を判定する従来の入試には、知識偏重で、受験生の意欲や創造性が評価されていないとの批判がある。
大学に求められるのは、変化の激しい時代において、柔軟な発想力や問題解決能力を備えた人材の育成だ。総合的かつ多角的に受験生を評価する選抜方法を検討する意義はあると言えよう。
だが、課題も少なくない。
選抜にはこれまで以上に手間や労力を要するだろう。マンモス大学では対応できるのか。
点数という明確な評価基準がなくなるため、受験生が選抜の公平性に不満を抱きかねない。
テストは複数回受けられる仕組みにする方向だが、実施時期が高校3年の秋頃になれば、高校の授業や行事に影響を与える。
何よりも懸念されるのは、「発展」テストの導入が優秀な人材の発掘や育成に繋(つな)がるのか、不透明なことだ。中央教育審議会でさらに議論を深めてもらいたい。
日本では、進級や卒業の際の成績評価を厳格に行っていない大学も多い。入学さえしてしまえば、比較的簡単に卒業できるという状況は今も変わらない。
入試制度の改革にとどまらず、大学教育の抜本的な機能強化を図ることが大切である。