大学入試改革:「教育変える突破口に」 下村博文文科相に聞く『毎日新聞』2013年10月21日付

『毎日新聞』2013年10月21日付

大学入試改革:「教育変える突破口に」 下村博文文科相に聞く

大学入試について、毎日新聞は連載「さまよう入試」などを通して、入試の「外注」増加や大学生の学力低下の問題点を報じてきた。今後、政府の教育再生実行会議の提言を受け、中央教育審議会(中教審)で入試改革の具体的な制度設計が検討される。そこで、中教審に諮問する立場の下村博文・文部科学相に入試改革への展望を聞いた。【聞き手・三木陽介、福田隆】

◇補助金で大学を支援

–大学入試の外注問題についての見解を。

◆入試問題は本来、自分の大学で作るべきだと思うが、大学側がどんな人材教育をするのか、きちんと提示することが大事だ。その上で、例えば大学入試センターのような外部の専門機関に作ってもらい、私立大が利用することもありえる。実際、学内の関係者に作ってもらうより、的確な能力判断ができるという部分もある。やり方の問題だと思う。

●一発勝負やめる

–6年前の初めての外注実態調査の時は、文科省が大学に外注自粛の通知を出したが、今回はどうか。

◆結果的に大学の教育力が低下していくことにならないように、注意喚起していきたい。

これまでの入試は学力一辺倒の一発勝負、1点差勝負の試験で、学力だけの評価だった。そこを変えたいと思っている。今、政府の教育再生実行会議で議論してもらっているが、1次試験の学力試験では結果を得点ランク別に示し、東京大であれば、例えば1000点満点の850点以上なら全員OKとする。2次試験以降は面接や小論文で、リーダーシップや創造力、ボランティア活動力など、ペーパーテストで判断できない能力を判断して、最終的に合否を決めるようにしたい。

–各大学が実施する2次試験では、従来のようなペーパーテストはやめるということか。

◆暗記中心のペーパーテストを2回もしないでも済むように考えたい。賛否両論あると思うが、学力だけの1点差で勝ったことにどんな意味があるのか。運もツキも相当ある。それが人生における運になるかというと、別の話だ。大学に合格したこと自体は運が良かったのかもしれないが、その判断基準が社会の中で必要な能力といえるのか。テクニック的な部分だけではなく、そもそも入試の役割、大学の役目は何なのか、社会で本当に有為な人材づくりにつながっていくのか、ということの連動性の中で、入試のあり方を考えていくべきだ。

●自己改革待てぬ

–大学には相当負担になるが。

◆大変だと思うが、大学自らが変わるのを待っていても仕方がない。大学が「象牙の塔」になっていて、社会で真に必要とされている人材は何なのか、真剣に考えていない。この選抜方法をやるかやらないかは国が強制できる話ではないので、各大学の判断になるが、そういうことをやる大学には、国から補助金など、インセンティブを与えることがあっていい。大学入試を変えるのは、本質的にこの国の大学教育だけでなく、高校以下の教育も大きく変えることにつながる。突破口になる。

–これからの大学に求められるものは?

◆日本は少子高齢化の中で、労働生産人口がどんどん減っていく。これからは一人一人の付加価値、つまり、労働生産性を上げていくしかない。そのための唯一のツールは教育だ。日本の大学進学率は52%で、経済協力開発機構(OECD)平均(60%)より低い。韓国やアメリカは約70%、豪州は96%だ。これからいかに質も量も高い高等教育を提供できるかを考えていく必要がある。

●危機意識が必要

–具体的には。

◆質の面では教育機関として、大学が時代の変化にどう対応するか、危機意識を持ってもらわなければいけない。これまで大学には自分たちは研究機関で教育機関ではないという考えがあった。学生が勝手に頑張ってきた面もある。社会のニーズに的確に応えた教育を提供していくことが求められる。

 

量の面では18歳人口の進学率を上げると同時に社会人の学び直しの促進も必要だ。25歳以上で大学に行っている人の割合は、日本は2%程度だが欧州の多くの国々は15%を超えている。30歳になっても40歳になっても、大学にもう一度行き直して勉強して、また社会に戻ってくる、というサイクルを国全体でバックアップする仕組みを作らなくてはならない。

今は学費への公的支援が低く、個人負担が大きい。公的支援を充実させ、さらに貧富のハンディキャップをなくし、大学や大学院に行ける仕組みを作りたいと思っている。

◇「到達度テスト」など活用;教育再生実行会議の改革案

国が進める大学入試改革は「一発勝負」「1点刻み」式の現行制度からの脱却と、学力保証の両方を満たす方向を目指している。

政府の教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大総長)で検討している改革案によると、二つの新テストを創設する。

一つは、現在、主に国公立大の1次試験に使われている大学入試センター試験の「改定版」。大学教育に必要な能力を判定するためのテストで、結果は現行のような「1点刻み」の点数主義ではなく、得点を大まかなランクに分けて表示する。例えば、1000点満点のテストなら「A(800点以上)」「B(700799点)」というイメージだ。

二つ目は、高校在学中に基礎学力の定着度を測るための「到達度テスト」。学力試験を原則課さないAO(アドミッション・オフィス)・推薦入試が学力低下を招いたという指摘もあるため、このテストを学力保証のために活用する。

いずれのテストも複数回受験できることを想定している。

近く実行会議が両テストを盛り込んだ提言をまとめ、具体的な制度設計や導入時期などの議論の場は文科相の諮問機関「中央教育審議会(中教審)」に移る。

 

 

 

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