法科大学院/原点に返った抜本改革を 『河北新報』社説 2013年10月7日付

『河北新報』社説 2013年10月7日付

法科大学院/原点に返った抜本改革を

専門知識と教養を備えた法律家を数多く育てるとした司法制度改革の原点が揺らいでいる。

創設10年目を迎えた法科大学院のことだ。

法曹養成制度検討会議の提言を受けた政府は9月、改革案をまとめる組織を立ち上げた。

法科大学院は、受験技術に偏らない実務教育を重んじる法曹養成の専門機関として設置された。法曹を司法試験という「点」で選抜するのではなく、大学での法学教育から司法修習までを有機的に連携させた「面」として養成するのが目的だ。

その理念に異論はない。問題は、中核的位置付けの法科大学院をめぐる「見込み」と「現実」の落差で、法曹養成が悪循環に陥っていることだ。

修了者の7、8割と見込んでいた司法試験合格率は、大学院の乱立による質のばらつきなどもあって、2、3割と低迷したままだ。合格者数も2千人程度で推移し、政府目標の3千人を大きく下回っている。

法曹人口が以前より早いペースで増加したことで、弁護士の就職難という新たな問題も浮上した。司法試験を突破しても就職先がなく、弁護士登録を見送る司法修習修了者もいる。

これでは貴重な学費や時間を投じてまで法科大学院で学ぼうという意欲は薄れよう。今春の志願者は1万4千人を切り、初年度の5分の1にまで減少した。優秀な人材の法科大学院離れが進めば、院自体の質の低下にも拍車が掛かることになる。

一方、法科大学院を経ずに司法試験の受験資格が得られる予備試験受験者は急増している。

本来は経済的事情で大学院で学べない人や社会人を想定した制度だが、大学生や法科大学院生の多くが「近道」として利用している。受験資格の厳格化などに着手しない限り、法科大学院の空洞化は避けられない。「面」で法曹を育てるという制度の根幹にかかわる事態だ。

法曹養成の在り方を議論してきた検討会議は6月にまとめた最終提言に、3千人とした司法試験の年間合格者目標の撤回や、大学院の定数削減、統廃合などを盛り込んだ。事実上の出直し宣言と言える。

今後の改革作業に当たっては、法曹資格を持った人材が企業や官公庁など法廷外で活躍できる場の確保が急務だ。弁護士を暮らしの安全、安心を支える地域資源ととらえ、活躍領域を開拓したい。それなしに適正な法曹人口は導き出せない。

心配なのは、安易な法科大学院の統廃合だ。司法試験の合格者は大都市圏の大学院に集中しており、地方の法曹志願者が不利益を被らないような配慮が欠かせない。

法科大学院に実務教育を求めながら、司法試験は旧来型のままだとの指摘もある。抜本的な見直しが必要な課題は多い。

法的サービスの質を高め、広げることは、国民の権利を守ることでもある。希望を持って法曹界を志す若者が増えるよう、一刻も早く新たな道筋を示すことが国の責任ではないか。

 

 

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