入試問題外注 大学の自主自律の放棄だ 『西日本新聞』社説 2013年10月6日付

『西日本新聞』社説 2013年10月6日付

入試問題外注 大学の自主自律の放棄だ

大学入試センター試験の出願受け付けが始まり、入試の季節が到来した。だが、志望校合格を目指して頑張っている学生だけでなく、保護者や学校関係者の多くが割り切れない思いを強めているのではないだろうか。

今春実施された大学入試で、全国98校の公私立大が入試問題の作成を予備校や受験関連企業などに外注していたことが文部科学省の調査で分かった。

教育基本法は、大学の目的を「学術の中心として高い教養と専門的能力を培い」「深く真理を探究して新たな知見を創造」して、その成果を社会に提供することだと定めている。

そのために「自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」としている。

どのような教育、研究を行うのか。それにふさわしい学生をどう受け入れるか‐。大学教育の根幹はそこにあろう。にもかかわらず、大学が求める人材を選抜する大切な入学試験を外部に委ねるのは、教育基本法を持ち出すまでもなく、大学の自主性、自律性を自ら放棄するに等しいと言わざるを得ない。

入試問題すら自前で準備できない大学が果たして学生をきちんと教育できるのか。そんな素朴な疑問が付きまとう。外部に発注することで、試験問題の漏出や公平性が損なわれる懸念も拭えない。

大学は「学術の中心」にふさわしい自覚を持って、自らの教育理念に基づいた試験を作成、実施してもらいたい。

調査は今春学生を募集した全国の国公私立大740校を対象に実施した。

同様の調査は2007年にも行っており、このときは私立大71校が外注を認めた。文科省は「外注は好ましくない」として独自に問題を作成するよう各校に通知した。しかし、今回の調査をみると、外注は前回調査より約4割も増えた。

どうしてこんなことが起きるのか。

背景には少子化がある。大学入学志願者が減り、大学を選ばなければ全員が大学に入れる「全入時代」を迎えた。それに伴って大学間の競争は激しくなり、私立大の約4割が定員割れの状態だ。

生き残りのため、経営の厳しい大学は経費や人員の削減を進めた。その結果、教員は研究や授業に追われて試験問題にまで手が回らなかったり、試験問題を作れる人材が学内にいなかったりして、やむなく外注に頼っているのだという。

より多くの学生を確保するため、アドミッションオフィス(AO)入試や推薦入試を導入して受験機会を複数化し、担当教員の負担が増えたことも、外注の流れに拍車を掛けた一因とみられる。

近年は入試で学力試験を課さない大学も増え、大学生の学力低下が指摘されている。このため、センター試験の見直しなど入試の抜本改革の動きも強まっている。それだけに、各大学は入試を含め、独自の教育理念や方針をどう示すかが、これまで以上に問われよう。

 

 

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