『毎日新聞』社説 2013年9月17日付
法科大学院10年 質高め改革の加速を
法律家を育成する法曹養成制度の中核である法科大学院が2004年に発足して10年目に入った。
司法試験合格率の低迷が指摘され、司法修習を終えても法律事務所に就職できない弁護士が急増するなど司法を取り巻く環境が変化した。近年は入学者も減少傾向だ。
それでも先日の司法試験合格発表によると、2049人の合格者のうち法科大学院修了者が約94%を占めた。近年は制度の行き詰まりや限界さえ指摘されるが、法律家養成の中心になっているのは間違いない。より充実した教育が実施できるよう政府、司法界は知恵を絞るべきだ。
低い合格率が最大の問題点だ。今年の法科大学院修了者の合格率は25.8%で、4人に1人にとどまる。ただし、上位14校は3割を超える。大学院間の格差が大きいのだ。
トップの慶応大が201人の合格者を出す一方、74校中35校が合格者1桁でゼロも3校あった。
合格率が極端に低ければ学生は集まらず、質の高い教育の維持は難しい。文部科学省は、合格率の低い法科大学院への補助金をカットしている。14年度から定員の充足率も補助金削減の条件に加え、今年度の4校から大幅増の18校の補助金削減を決めた。既に新規の募集停止に踏み切ったところもある。文科省の締め付けで音を上げる前に、まず他校との統合や提携などを積極的に模索し、教育の質の向上を図るべきだ。
政府の法曹養成制度検討会議は6月、「法的措置」導入を検討するよう最終提言に盛り込んだ。現在は法科大学院を修了すれば司法試験の受験資格が得られるが、合格率が低い大学院には受験資格を与えないなどの方法が取りざたされる。
だが、そういった手法は疑問だ。法科大学院を法律家育成の柱に据えた司法改革の理念からも遠ざかる。
教員と学生が双方向で時間をかけて法律や実務の知識を深めていく授業スタイルへの評価は低くない。
ならば法科大学院修了後の出口でふるいにかけるのではなく、入学者選抜試験という入り口で一定の選別をし、出口をプレッシャーのない試験方法にすることも真剣に検討すべきだ。受験勉強的な要素を排し教育の密度と多様性を高めるのだ。
法科大学院は、制度発足後、毎年2000人前後の司法試験合格者を社会に送り出してきた。外国との経済取引の拡大で法廷実務以外で通用する法律家の需要は高い。一方で、地方をはじめ国民に十分な司法サービスが行き届く体制が整備されたとは言えない。政府は「年間3000人」の合格者目標を撤廃した。だが、法科大学院を軸に現状レベルの合格者を出す方向性は維持すべきだ。