『読売新聞』社説 2013年7月30日付
公的研究費 不正使用の徹底防止を図れ
科学技術の向上を支える公的研究費の在り方が問われている。
東京大学政策ビジョン研究センターの教授が、架空業務を業者に発注し東大などから2180万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
引き出された資金には、IT技術を医療分野に活用する研究支援として、厚生労働省が支給した補助金が含まれていた。特捜部は私的流用があったと見ている。
教授は容疑を否認しているが、事実であれば、大学の研究事業に対する期待と信頼を裏切る行為と言わざるを得ない。
特捜部は、事実関係の解明に全力を挙げてもらいたい。
公的研究費を巡っては、かねて不正使用が問題視されてきた。
文部科学省が4月に発表した調査結果によると、46の大学と研究機関で不正使用が確認され、その額は3億6100万円に上る。
中でも目立つのが、「預け金」と呼ばれる手口だ。
研究者が物品を購入したように装って、代金を業者に渡し、プールさせておく。自由に使える資金を確保したり、年度内に消化できなかった予算を次年度以降に繰り越したりする目的で行われる。
大学との取引が有利になると期待して、業者が研究者に協力するため、癒着につながりやすい。
研究者側には、年度ごとに消化することが求められる公的研究費について、弾力性に欠けるといった不満が根強くあるようだ。
ただ、研究費の原資は、言うまでもなく国民の税金であり、都合の良い流用は許されない。
政府の成長戦略の柱として、科学技術振興が盛り込まれた。今後、予算増額の可能性もあるだけに、なおさら、研究費は適正に利用されなければならない。
各府省が今年度から、不正使用を行った研究者に対する罰則を強化したのは当然である。
研究費の応募資格を停止する期間を、私的流用の場合には5年から10年に延長した。新たに、研究を管理する上司についても、必要な注意義務を怠れば、応募資格を最長2年停止することにした。
大学側のチェックの甘さも問題だ。文科省は2007年にガイドラインを策定し、発注通りに物品が納品されたか、監査の徹底を求めた。だが、取り組みが依然、不十分な大学が少なくない。
各大学は管理体制を再点検すべきだ。文科省もガイドラインの履行状況を検証し、不正の根絶につなげていく必要がある。