論文捏造 不正ただす制度不可欠 『北海道新聞』社説 2013年7月30日付

『北海道新聞』社説 2013年7月30日付

論文捏造 不正ただす制度不可欠

東京大学で研究論文の捏造(ねつぞう)や改ざんが長年にわたり、繰り返されてきたことが明らかになった。

大学の権威と研究の信頼性を根底から揺るがす由々しき事態である。

なぜこのような不祥事が放置されてきたのか。大学を挙げて実態解明に取り組まなければならない。

研究者にとって論文の改ざんは自殺行為に等しい「重大な罪」であることを再認識する必要がある。

東大では昨年も特任研究員が人工多能性幹細胞(iPS細胞)を世界で初めて臨床応用したと虚偽の発表を行って社会を騒がせた。

倫理観の欠如に驚きを禁じ得ない。組織そのものに緩みがあると指摘されても仕方あるまい。

今回、改ざんが認定された論文は全部で43本に上る。肥満の仕組み解明などをテーマに研究室のメンバーら20人以上が名を連ねていた。

成果を偽装するため実験結果の画像を消したり、別の画像を切り貼りしたりしていた。悪質極まりない。

とりわけ主導した元教授の当事者意識の欠如には目を覆うばかりだ。元教授は「捏造は自分の知らないところで行われていた」と釈明している。こうした研究姿勢が不正の温床となったのは明らかだ。

だが、論文の改ざんは東大に限った話ではない。

他大学でも繰り返されており、先日は京都府立医大の研究者と製薬会社社員が結託した高血圧治療薬の論文データ改ざん問題が表面化した。

なぜこうも不祥事が続くのか。

背景には成果主義の激化がある。研究者は、期限付きで採用されるのが一般的となり、教授職は論文の数や質によって選考される。このため、論文が「出世の道具」となる傾向が一段と強まっている。

世界ランキングの上位に食い込むため、大学同士が論文の発表数を競い合っていることも見逃せない。

東大の論文捏造は、学外から「データに加工の疑いがある」との指摘を受けて発覚した。不正を防ぐには通報制度の普及が効果的と言える。

論文の共著者が内容を相互にチェックし、改ざんや捏造を見つけた際は告発も辞さない空気を醸成していくことが不可欠だ。

研究には巨額の税金が使われている。不正は納税者への背信につながり、厳正に処分されるのは当然だ。

医療や薬剤の分野では、健康や暮らしに重大な影響を及ぼすことも忘れてはならない。

米国では政府機関が不正の調査と研究者への倫理教育の両面を担っているという。日本も政府と大学が一体となって研究倫理を確立しなければ、信用力の低下は免れない。

 

 

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