【論文の不正】荒療治もやむを得ない 『高知新聞』社説 2013年7月28日付

『高知新聞』社説 2013年7月28日付

【論文の不正】荒療治もやむを得ない

東京大学で長年にわたって、多数の論文に改ざんや捏造(ねつぞう)が行われ、大学側が「撤回が妥当」とする予備調査報告書をまとめた。

国内では近年、研究者の論文改ざんが発覚するケースが相次いでいる。日本の学術研究への信頼も揺るがしかねない重大な問題だ。実態を解明し、各大学や研究機関に共通する再発防止のルールづくりを急ぐべきだ。

東大の論文の不正は分子生物学の第一人者とされる教授が関わった研究で、教授は昨年3月に大学を辞職している。過去16年間の論文165本を調べたところ、同一画像の使い回しが多数見つかったほか、画像に反転などの加工をした上で、別の画像として使っていたケースもあった。

元教授は直接改ざん・捏造に関わっていないというが、なぜこんな単純な不正を見抜けなかったのか。研究室や研究グループでの議論は十分だったのかなど、チェック機能のずさんさが疑われる。

元教授は多額の公的助成を受けた研究も多かった。不正に関係した研究への税金投入は許されず、返還するのが当然だ。

それ以上に論文不正が罪作りなのは、今後の同種の研究に誤った結果を伝えかねないことだ。特に医療研究の分野は、患者らの生命に関わるかもしれず、厳しいチェックが必要だ。

実際、京都府立医大の臨床研究で、データの操作が明るみに出たばかりだ。誤った情報で高血圧患者に薬が処方された可能性がある。

東大の報告書が「撤回が妥当」とした論文は、計43本にも上る。研究を率いた元教授だけでなく、実際に改ざんに手を染めた若い研究者たちはどんな思いでいただろう。彼らの将来にも計り知れない悪影響を及ぼす。

論文の不正は学問の自殺行為にほかならない。少しぐらい手を加えてもいいだろうという意識が広がっているのなら、少々の荒療治もやむを得ないだろう。

専門家の間には、公的な監視機関の必要性とともに、法整備による罰則の強化を主張する声もある。研究者の倫理性が疑われる以上、外からのチェックの目を利かせ、厳しく対処する必要がある。

研究費をめぐる、業界と研究者らの不透明な関係の問題もある。研究室はもはや「聖域」ではあり得ない。

 

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