大学入試改革(4)AO型 13時間かけ選抜『読売新聞』2013年7月12日付

『読売新聞』2013年7月12日付

大学入試改革(4)AO型 13時間かけ選抜

 文学部で心理学の講義を聞いた後、経済学部に移動し、ゼミで行動経済学を勉強――。

 九州大学(福岡市)の「21世紀プログラム」で学ぶ3年、鶴羽愛里(えり)さん(20)の木曜日のスケジュールだ。ビジネスを通じて、途上国の貧困問題などの解決を目指す研究を進める。

 同プログラムは2001年春にスタートした。学生はどの学部にも所属せず、全11学部の講義を自由に選び、自分の関心に合わせて独自のカリキュラムを作って学ぶことができる。

 狙いは、国際的な視点や幅広い専門知識を持ち、リーダーシップを発揮できる人材の育成。入学定員は26人で、志願倍率は3~5倍に上る人気だ。

 リーダー養成のためのプログラムだけに、学生の選抜にも工夫を凝らす。入試は小論文と面接などによるAO(アドミッション・オフィス)型で、2日間計13時間をかけて行う。

 初日は、人文、社会、自然科学の3分野で同大の教員の講義を50分ずつ受け、それぞれ70分でリポートをまとめる。2日目は、講義に関する集団討論と小論文、個人面接。高校生にはハードな内容となる。

 大学側は入試準備にも相当時間をかける。毎年、新たな講義を考えなければならず、35人以上の教員がかかわる。プログラムの運営に携わる林篤裕教授(高等教育論)は「学生の考え方を見極めるには、このような方式が欠かせない」と話す。

 入学後の教育も手厚い。学生それぞれに指導教員がつき、授業科目の選択を指導するほか、大学での学習法や進路などの相談にも乗る。学生と読書会を開いたり、留学の申請書の添削をしたりする指導教員もいる。

 5月下旬、鶴羽さんが卒業後の進路相談に、指導教員の林教授の研究室を訪ねた。「京都大大学院の特別プログラムへの進学を考えているのですが……」。鶴羽さんが挙げたコースでは専門にこだわらず総合的な学習ができるが、鶴羽さんの目標を知る林教授は、経済学など専門分野を深めることも検討しては、と助言した。鶴羽さんは「いつも適切なアドバイスをくれる。相談することで考えも整理できる」と話す。

 林教授は「自由に学べるからこそ、悩む学生もいる。力や目標を把握し、サポートすることが大切だ」と強調する。

 入試から入学後のサポートまでの体制をいかに整えるかが大学に問われる。入試だけを小論文と面接にしても、うまくいかないこともある。同大でも法学部は09年度を最後にAO入試をいったん廃止した。酒匂一郎学部長は「AO入試の実施だけで、求める学生が入ってくるわけではない」と説明する。

 ただ同学部では15年度から、AO入試を再開する。大学入試センター試験の受験なども課す内容に改め、入学後も英語による教育に力を入れたプログラムを準備する。酒匂学部長は「求める人材を選び、育てるには入試と入学後の教育プログラムをセットで考えなければならない」と語る。(饒波(のは)あゆみ)

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