大学入試改革(2)「話せる英語」目指すには『読売新聞』2013年7月6日付

『読売新聞』2013年7月6日付

大学入試改革(2)「話せる英語」目指すには

 エール大、コロンビア大、マサチューセッツ工科大――。

 大阪府立三国丘高校(堺市)の教室には、TOEFLを入試などに利用する海外の難関大学の一覧表が貼り出されている。

 TOEFLは米国の非営利団体が開発した英語力テストだ。留学促進につなげようと、政府の教育再生実行会議は5月、TOEFLなど外部英語テストの大学入試への活用を提言した。

 府内有数の進学校である同校は2011年度から、「国際的に活躍できる英語力を」とTOEFLのための特別講座を開く。年10回の講義と2泊3日の合宿。今年度は1、2年生の希望者計101人が参加する。

 海外大学への進学を目指す2年の脚(きゃく)ノ(の)友里さん(17)は「半分以上がリスニングで、普段の英語授業とまるで違う」と戸惑いつつ、「米国の映画産業で働くのが夢」と話す。指導する山脇龍郎教諭(58)は「思っていた以上に、世界の大学を意識する子が増えた」と驚く。

 大阪府内の府立、私立高校では今年度、約20校が希望者を募り、同様のTOEFLの学習に取り組む。府が今年度から、模擬試験の費用(1回2900円)を年3回分支給する支援策を決めたためだ。だが一方で、広がりには限界もみられる。

 象徴的なのが、11年度に当時の橋下徹知事(現・大阪市長)の発案で行われた事業の失敗だ。

 現状の英語教育では「話せる英語」が身に着かないと考えた橋下知事は、「10年後、20年後には英語を話せることが就職の条件になる」と、TOEFL利用を奨励した。促進策として学年の3分の1以上の生徒がTOEFLを受験し、平均点が全国平均を上回った学校に、最大1800万円の特別予算を支給する事業をスタートさせた。

 しかし、対象約270校のうち、参加は11年度が8校、12年度が5校にとどまった。全国平均を上回らなければ、特別予算は支給されず、1人約2万円の受験料が生徒の負担となったためだ。府教委高等学校課の恩知忠司参事は「目標が高すぎ、各校が二の足を踏んだ」とみる。

 学校側には「TOEFLの点数ばかりを追いかけてはいられない」という事情もある。国内の難関大学の入試では現在、会話力より文法理解力や語彙(ごい)力を高い水準で要求される。TOEFLの点数を一般入試の合否判定に利用する大学はほとんどない。府立高のある英語教諭は「受験英語は別。現場としては、受験という目の前のハードルを越えさせるのが第一だ」と漏らす。

 事業は結局、2年で行き詰まり、模擬試験費用の支給に変わった。中原徹・府教育長は「英語教育を変えてほしい、という声は大きくなっている」と強調する一方、「全面的に『話せる英語』を目指す教育に切り替えるには、大学入試そのものが変わらなければ難しい」と話した。(桜井悠介)

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