大学入試改革(1)米国進学へ 自己アピール『読売新聞』2013年7月5日付

『読売新聞』2013年7月5日付

大学入試改革(1)米国進学へ 自己アピール

 大学入試が変わろうとしている。

 TOEFLなど外部の英語力テストの導入検討、東京大学や京都大学にまで広がる推薦やAO(アドミッション・オフィス)入試――。社会が求める人材が大学で育っていないという産業界の不満が、背景にある。いかに優秀な人材を選抜し、育てるか。入試を巡る議論が活気を帯びてきた。

課題文章で評価

 「私たちに不可欠なものは?」「iPad!」「インターネットは本当に必要なの?」

 5月27日、私立渋谷教育学園渋谷高校(東京都)で、海外大学への進学を目指す3年生6人が授業中、英語で米国人教員と話し合っていた。「エッセー」と呼ばれる課題文章を書くため、アイデアを練るのが目的だ。独創性や熱意などの選考資料となる。

 米国の大学入試では、学力は「SAT」などの共通テストで見る。年数回行われ、結果は大学の選考資料の一つとなる。だが、ハーバード大など有名大では、SATが満点の出願者も珍しくない。エッセーで、どれだけ自己アピールをできるかが合否を分ける。

 同高3年の小橋めぐさん(17)は米国の大学で経営学やジャーナリズムを学びたいという。「試験の点数だけで選考する日本の大学と異なり、米国の大学では、エッセーの課題こそが『こういう人が欲しい』と示すメッセージ。課題を考えることで、私自身もこの大学を希望していいかを考えられる」と話す。

 指導する伊藤幸子教諭(53)は「いかに自分の魅力を伝えられるかが勝負。最低でも10回は書き直しています」と言う。

 学業以外の受賞歴や就労体験なども選考資料だ。教員2人による生徒評価も求められる。▽やる気▽他者への思いやり▽リーダーシップ――など16項目を「平均以下」から「これまで出会った生徒の中でも最優秀」まで7段階で評価する。

公正な制度とは

 「必死に自分をアピールしないと認めてもらえないという、米国社会の姿を反映している」と高際伊都子副校長(46)は指摘する。

 学習意欲や大学への適応性を見極め、優秀な学生を選抜する米国流。模範的な選抜方法と見る人も多い。自民党の教育再生実行本部は5月、高校在学中に複数回挑戦できる「達成度テスト」を創設し、学力水準が大学進学レベルかどうかを見極めた上で、学力以外の力も見るような入試に抜本改革するよう、政府に求めた。これを受け、下村文部科学相は大学入試センター試験の見直しにも言及した。

 ただ米国流の入試では、結果が点数で表れる学力試験に比べ、合否の基準も明確ではない。同高では、米国の大学を目指す生徒が増える一方、入試制度が肌に合わないと、日本の大学を選ぶ生徒も少なくないという。

 日本の社会が入試は公正・公平こそが大切だとしてきた結果でもある。高際副校長は言う。「日本と米国の入試は違う。どちらが優れているかではなく、多様な尺度があることが大事ではないでしょうか」(伊藤史彦)

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共通試験 欧米でも

 政府が達成度テスト導入の検討を始めた背景には、有名大が1点刻みの成績で合否を決める知識重視型の入試を続ける限り、「独創性や思考力、応用力が求められる現代のグローバル社会で活躍する人材は育たない」という産業界などからの強い批判がある。

 一方、少子化で定員割れに陥った私立大が、面接などによる合否判定を増やした結果、学力が低い受験生でも入学しやすくなり、1点刻みで成績を出すセンター試験の存在意義が揺らいでいる事情もある。

 欧米でも全国共通試験を実施する国が多い。フランスでは「バカロレア」、ドイツでは「アビトゥア」という大学入学資格を与える試験が年1回行われる。合格すれば、原則として希望する大学に進める。ただ、学生が増えすぎ学習環境の悪化が進んでいるとされ、フランスのエリート校では別に厳しい選抜試験を課している。

 多様な水準の大学がある米国では、選考方法も大学によって異なる。有名私立大はSATなどの成績にエッセーや面接を組み合わせ、独創性を重視する。他方、多くの学生が進む州立大は、SATなどの得点と高校の成績が一定以上であれば入学できるが、中退者も多いという。

 大学の多様化が進み、学生の学力格差が広がりつつある日本でも、対応した入試制度が求められ始めている。(石塚公康)

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