製薬各社、資金提供額を公開へ 大学への研究費など『日本経済新聞』2013年7月13日付

『日本経済新聞』2013年7月13日付

製薬各社、資金提供額を公開へ 大学への研究費など

 武田薬品工業や米ファイザーなど製薬各社が医療関係者や大学に支払った研究費などの公開が7月下旬にも始まる。2011年に業界団体が設定したガイドラインに基づく措置だ。スイス系ノバルティスファーマ元社員が自社製品の効き目を検証する大学の臨床研究に関与した問題に注目が集まる中での情報公開となる。製薬各社は同問題で揺らいだ医薬品への信頼回復につなげていきたい考えだ。

 日本製薬工業協会は11年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、武田など各社は準備を進めてきた。7月下旬にもホームページなどを通じて順次データを公開する。大学などへの資金供与の実態が公開されるのは今回が初めて。

 医療機関などへの資金提供は、製薬会社上位20社からの寄付金だけでも年300億~400億円とみられる。ガイドラインは、医療機関や大学などへのこうした資金提供の流れの透明化を目的とする。

 公開の対象となるのは大学との創薬などの共同研究費や研究室に対する助成費の内訳、製品広告などへの原稿執筆料の支払先など5項目だ。来年は原稿執筆料について個人名に加えて支払金額と件数まで対象を広げ、詳細が分かるようにする。

 京都府立医大がノバルティスの高血圧治療薬「ディオバン」の臨床研究を実施した際、同社の社員を参加させたことを開示せず、研究データも何者かの手で改ざんされていたことが分かった。担当した大学研究室にはノバルティスが資金提供していたことも判明した。研究結果は世界的に著名な論文雑誌に掲載されており、日本の臨床研究自体に対して疑惑が向けられかねない事態だ。

 ノバルティスを巡る問題と情報公開の時期が重なったのは偶然だが、製薬業界では信頼回復の第一歩としたい考えだ。

 海外でも企業と医師らとの関係は厳しく追求されてきた。米国では1980年代に今回同様のガイドラインを取り入れた。それにもかかわらず不祥事が続いたため、今年秋から製薬会社から医療機関などへの資金の流れの開示を法律で義務付ける。日本のような自主目標のガイドラインより踏み込んだ対応となる。

 米国に比べ日本の製薬業界や医療機関の取り組みは「20年遅れている」とされる。一方で日本の医学研究の貧弱な基盤が原因との指摘もある。

 米国では医療分野の研究開発の司令塔である国立衛生研究所(NIH)だけで約3兆760億円の予算を持つ。その多くが研究者に配分されている。日本では企業からの資金提供なしに研究もままならないのが実情だ。不透明な関係の是正を着実に進めながら、国策でもある医療産業の国際競争力をどう強化していくかが問われる。

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