降圧剤不正 問われる産学の透明性 『毎日新聞』社説 2013年7月13日付

『毎日新聞』社説 2013年7月13日付

降圧剤不正 問われる産学の透明性

 薬への信頼性を根底から揺るがす事態と言わざるを得ない。

 製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤ディオバンを使った京都府立医大の臨床研究で、論文のデータが人為的に操作されていたことが分かった。

 驚くのは、薬の効果が高まるよう改ざんされていた点だ。

 医療現場は論文などを基に処方する薬を選び、患者は効果を期待して服用している。医師や患者を欺く行為であり、到底許されない。

 この薬は年間約1千億円も売り上げる国内最大のヒット医薬品だ。しかも、健康保険など国民の負担で賄われていることは看過できない。研究を主導した元教授らの責任は極めて重い。

 誰がどんな意図で操作したのか。調査を大学任せにせず、ノバルティス社や厚生労働、文部科学両省も全容解明に力を尽くすべきだ。

 大学によると、研究は降圧剤として販売されていたこの薬の付加的効果を探る目的で行われた。論文は、他の降圧剤より、脳卒中や狭心症の予防効果が高いと結論付けた。

 しかし、研究対象の患者のカルテと論文データを突き合わせたところ食い違いが目立った。解析し直すと他の薬との効果の差はなかった。

 問題は、当時のノバルティス社の社員がデータ解析の責任者となり、研究に参加していたことである。

 本来は第三者の統計専門家に依頼するのが筋だ。社員が自社の製品を扱うのでは、不正にかかわっていたと受け止められても仕方ない。

 大学は本人への聞き取り調査ができず、不正への関与の有無を突き止められなかったと説明している。これでは真相解明にほど遠い。

 上司が社員の活動を支援し、論文を販売の宣伝材料に活用していたのも気になる。社員の聴取も含め、研究との関わりを企業側が責任を持って明らかにすべきだ。

 大学がノバルティス社から約1億円の寄付を受け取っていたことも公表されている。

 研究に手心を加えた事実はなかったか。大学は研究グループの担当者にあらためて聴取するなどして経緯を究明する必要がある。

 研究への公的支援が限られる中で、製薬会社と大学との連携はますます盛んになるだろう。だが、研究の透明性や中立性が保たれなければ、薬への信頼、安全は生まれない。

 多くの学会は研究者が寄付を受けた場合、論文にその旨を明記するよう促しているが、それだけでは十分とは言えない。

 国は、企業と大学との金銭の授受や研究への関与について倫理指針で明確に示すべきである。

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