法科大学院の統廃合 地方に配慮 欠かせない『中国新聞』社説 2013年7月1日付

『中国新聞』社説 2013年7月1日付

法科大学院の統廃合 地方に配慮 欠かせない

 専門知識と教養を兼ね備えた人材を法曹界に送り出す。鳴り物入りで始まった法科大学院制度が、10年もたたずに転機を迎えている。

 政府の法曹養成制度検討会議が先週、司法試験の合格率が低い大学院に淘汰(とうた)を迫る提言をまとめた。

 2004年にスタートした制度は合格者が伸び悩み、入学志願者は当初の5分の1にまで減った。既に入学者募集を打ち切ったところもある。

 今回の提言を踏まえ質、量ともに向上させる必要がある。併せて地方の実情にも即した改革へとつなげたい。

 提言の柱は、実績を挙げていない大学院に対し、定員減や統廃合を促したことである。政府には補助金の削減や教員派遣の中止を求め、改善が見込めない場合は修了者に司法試験の受験資格を与えないなどの強硬手段まで視野にあるとみられる。

 法科大学院は当初、修了者の7~8割が司法試験に合格すると期待されていた。ところが全国で74校も乱立し、定員割れが相次いだ。ここ数年の合格率は平均で2割台に低迷する。

 法科大学院を出たのに司法試験に受からない。これでは「話が違う」と志願者たちが思うのも当然だろう。

 教育の質の低下はもはや見過ごせない。選別の時代に入るのもやむを得まい。

 一方で、法曹人の育成に力を入れてきた新設校などの芽を摘んでしまう懸念が残る。統廃合を促す具体策は、新たな検討会議が2年以内にまとめるという。合格率といった一律の物差しだけではなく、大学院側の改善計画などをくみ取る柔軟さが欠かせない。

 統廃合のしわ寄せは、小規模の大学院が目立つ地方への影響が予想される。その結果、都市部にばかり大学院が残れば卒業後もそのまま、地方に戻らない人が増えかねない。

 医師と同様、弁護士は暮らしの安全や安心を支える地域資源である。頼りがいのある法律家を身近に数多く育てるという、法科大学院導入の原点を忘れてはなるまい。

 人口が都市部に集中し、地方が過疎にあえぐ。アンバランスが弁護士の世界でも広がらないような具体策が求められる。

 例えば、地方自治体が弁護士を職員として雇い入れる試みを促すことも考えられよう。欧米では一般的だが、日本ではまだ広がっていない。

 地方分権の時代には、必要な条例を自ら制定する姿勢が欠かせない。国や都道府県に追随するのではなく、法的な視点から政策を考える能力が求められつつある。市民サービスの向上にもつながる。

 法曹養成機関の在り方としては、島根大の山陰法科大学院が構想を打ち出した「広域連合法科大学院」が一つの方向性を示しているだろう。

 国公私立を問わず他大学と連携し、テレビ電話などを通じた遠隔授業も提供する計画である。単独では15年度に停止する入学者募集でも連携を図る。都市部に劣らない教育の提供は、志願者にとっても魅力に映るはずである。

 法曹人が活動できる場を地方でも広げ、地域づくりに生かしていくことの重要性をあらためて共有したい。

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