『高知新聞』社説 2013年6月21日付
【大学4学期制】留学促進へ現実的選択だ
東大は秋入学移行を当面見送り、2015年度末までに4学期制を導入する方針を決めた。
今後、学部ごとに導入時期などを検討する。秋入学を検討していた他大学にも影響を与えそうだ。
社会や経済の国際化が進む中、大学への期待は高い。研究のレベルアップや海外で活躍する人材育成が求められている。そのためには世界の先端大学との人的交流が重要だ。
しかし、社会の環境整備が追い付かず、留学生の派遣や受け入れが進んでいない。
学期の区切りを海外の大学の学期開始時期と合わせることで、海外留学や留学生の受け入れをしやすくする。東大が選んだ4学期制はより現実的だと言えるだろう。
欧米で主流の秋入学は1980年代の臨時教育審議会以来、ずっと言われ続けてきたテーマだ。この10年ほどでも教育改革国民会議や教育再生会議が秋入学を提言している。
しかし、秋入学が進まないのはなぜか。
一つは国家試験や就職の問題だ。
通年採用の企業は増えているが、多くは依然4月に新卒者を採用する。秋入学で卒業が夏になると、就職活動で不利益を被る学生が出てしまう。公務員の採用試験や国家試験の時期も春入学が前提だ。
高校卒業後の半年間の過ごし方も懸念材料だ。
学生がボランティアや体験活動をするには受け皿の問題のほか、費用がかかるため格差が生まれるとの指摘もある。
また、3月卒業・4月入学という小中高校の現状に影響を及ぼす可能性もある。大学までの教育の在り方が大きく変わるかもしれない。
秋入学移行には整備すべき条件は多い。大学だけで解決できる問題ではなく、実現には国や経済界の理解と協力が不可欠だ。
日本からの海外留学はここ数年減り続けている。4学期制では夏休みの長期化も可能になるため、短期留学もしやすくなる。併せて奨学金制度の充実など経済的な面からの支援も必要だ。
東大の浜田純一学長は「大きな方向として秋入学を見据えていく」とし、将来的な実現を目指す考えを示している。秋入学だけでなく、大学教育そのものについて国民全体で考えたい。