山陰法科大学院が募集停止へ『中国新聞』 2013年6月18日付

『中国新聞』 2013年6月18日付

山陰法科大学院が募集停止へ

 島根大は17日、2015年度の山陰法科大学院(ロースクール)の入学者募集を停止すると発表した。国立大法科大学院の募集停止は初めて。15年度からは複数の大学と「広域連合法科大学院」を設立し、入学者を募集する方針。

 04年度設立の同法科大学院は、12年度の司法試験合格率は6%、入試競争倍率は1・88倍。3年連続で合格率が全国平均の半分未満、入試倍率が2を下回ったため、13年度は国立法科大学院として初めて国の補助金を約2500万円削減された。また入学者数は減少を続け、13年度は2人(定員20人)と落ち込んでいた。

 この日、同大で会見した小林祥泰学長は「補助金が削減され、このまま単独で維持するのは難しい」と募集停止の理由を語った。

 14年度の入試はこれまで通り実施。在学生が修了するまでは現在の法科大学院は維持し、新設する広域連合法科大学院へ中途で転籍することも可能とする。

 同大によると、広域連合法科大学院は、国公立、私立を問わず複数の大学と共同で設立。各大学のキャンパスからテレビ電話などを活用し遠隔授業をする。キャンパス分散型は法科大学院では初の試み。法科大学院を運営する複数の大学と交渉を進めているとしたが、小林学長は「具体的な交渉先は明かせない」とした。

法科大学院募集停止「驚き」

 島根大が17日に発表した国立大初の法科大学院の募集停止。法科大学院を擁する他大学や法曹関係者に驚きが広がる一方、併せて発表した連合法科大学院構想には、地元から期待の声も上がった。

 岡山大の上田信太郎法務研究科長は「法科大学院を取り巻く厳しい状況を痛感した」と話す。大学院内に二つの法律事務所を置き実務を学べる環境を整えるなど、教育の質向上の努力を続ける。

 しかし、同大の2013年度の定員に占める入学者の割合は56%と低迷。中国地方では広島大も56%、広島修道大も30%と「定員割れ」の状況だ。

 政府の法曹養成制度検討会議も6日、最終提言案で司法試験合格者数を年間3千人程度に増やす目標を撤回するなど逆境は続く。

 広島弁護士会の法科大学院運営支援委員長の河合直人弁護士(38)は「法科大学院の我慢比べが終わり、地方の弱い大学から影響が出てきた。手を打たなければ流れは広島にも波及するだろう」と分析。「地方の法科大学院は、地域の実情を知る弁護士養成に必要。学生の都市部への集中を是正する対策が急務だ」と指摘する。

 一方、地元からは連合法科大学院という形での存続を歓迎する声が上がる。

 「絶望的な状況から何とか生き残り策を示してくれた」。3月に弁護士や自治体関係者たちで設立した山陰法科大学院支援協会の池野誠会長代行(79)は大学の判断を歓迎する。同協会は企業や個人からの募金で14年度から入試受験料の補助制度を設ける予定だ。「地域で支える仕組みを築きたい」と意欲を示す。

 同法科大学院1期生で松江市に事務所を持つ広沢努弁護士(41)は「教育の質を高め、入学者が増えるような努力が一層必要になる」と指摘。「課題は山積だが、地方の法科大学院の存続モデルになる可能性はある」

 島根大の小林祥泰学長は、連合法科大学院で企業や自治体で専門知識を生かす「法務実務家」の育成も重視する考えを示した。「今後は法科大学院の半分が単独では存続できなくなるのではないか。そのまま倒れるより挑戦したい。背水の陣で臨む」と語った。

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