大学、留学生獲得へタイに拠点続々 中韓とのあつれき背景『西日本新聞』 2013年6月16日付

『西日本新聞』 2013年6月16日付

大学、留学生獲得へタイに拠点続々 中韓とのあつれき背景

 日本の大学が東南アジア諸国連合(ASEAN)地域への展開を視野に、タイでの活動を活発化させている。事務所開設から留学生確保、大学間連携協定など幅広い。主導しているのは「留学生30万人計画」を掲げる文部科学省だが、これまで関係を深めていた中国、韓国との交流が、領土や歴史認識をめぐるあつれきから低調になっていることも背景にある。 (バンコク野中彰久)

 「指名されたら好きなポーズをして名前を言ってね」-。バンコク中心部にあるシーナカリンウィロート大。真新しい教室で学生たちが自己紹介ゲームを始めた。タイ人に交じっておどけたポーズを取るのは明治大学の学生。同大の9人は先月末、英語とタイ語の1年間の海外留学をスタートさせた。

 「東南アジアはこれから伸びる。タイ語ができるのは強みになる」と4年生の井直大さん(23)=熊本市出身=は参加動機を語る。

 教室は、シーナカリンウィロート大の一角に先月開設された明大アセアンセンターの中にある。最大180人を収容し、ネット経由で日本の授業を受けることもできる。大学の海外拠点が教室を持つのは珍しい。

 両大学が締結した連携協定に基づいて設置されたセンターの最大の目的は学生の語学研修。計画では明大は年間50人の学生を送り込み、同数のタイ人学生を受け入れる。センターの斎藤正雄運営総括は「ここはASEAN地域での大学セールスや学術交流の拠点でもある。各国の大学とも連携を強め、より多くの学生や院生が明大に関心を持つきっかけをつくりたい」と意欲を見せる。

 バンコクではこのほか、昨年の立命館アジア太平洋大(APU)=大分県別府市=に続き、今年は福井工業大、秋田大が事務所を設置した。いずれもASEAN地域の拠点という位置づけだ。秋田大は地下資源の豊富な同地域で地球資源学科の学生の研修や学術交流を展開する予定。事務所の責任者の今井亮教授は「ASEANとのつながりを大学の特色にしたい」と話す。

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 今月3~7日にはバンコクの日本大使館で留学説明会が開かれた。北海道大、東海大など12の大学と日本語学校7校が参加し、タイの高校生に特徴や入試、支援制度などを説明した。

 大使館での留学説明会は例がないという。独立行政法人・日本学生支援機構とともに初の説明会を企画した同大使館の俵幸嗣1等書記官は「ASEAN地域からの留学生が欲しいという学校が増えている」と開催理由を説明する。

 その背景について、参加した広島大の小池一彦准教授は「中国、韓国からの留学生の減少が大きい」と話す。

 文科省の留学生30万人計画では、大学の国際化を進め、国際競争力を高めるため、2020年の受け入れ留学生数30万人を目標に掲げる。だが、同機構によると昨年5月時点の留学生数は前年比319人減の13万7756人にとどまる。とりわけ中国の1209人減、韓国の989人減が目立つ。東日本大震災に加え、両国との関係悪化が影響しているという。

 中韓両国からの留学生が減少する中、日本の大学がASEANに目を向けているのは「大学ランキングの影響もある」と、日本学術振興会の山下邦明バンコク研究連絡センター長(元九州大教授)は指摘する。評価の尺度はランキングの実施団体によって異なるが、論文引用数などとともに、留学生比率も評価される場合が多い。中国やシンガポールの大学と順位を争う日本の各大学にとっては留学生の確保は大きな課題だ。山下センター長は「政府の成長戦略に盛り込まれたグローバル人材育成のためにも、日本の大学の国際化は不可避。ASEANとの関係はこれからますます強くなる」と話している。

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