センター試験廃止検討 「学力とは何か」根底の議論を『愛媛新聞』社説 2013年6月9日付

『愛媛新聞』社説 2013年6月9日付

センター試験廃止検討 「学力とは何か」根底の議論を

 文部科学省は、大学入試センター試験を廃止し、高校在学中に複数回受験できる「到達度テスト」を創設する検討に入った。早ければ5年後をめどに導入する考えだ。

 導入が決まれば、1979年の共通1次試験開始から30年以上続く大学受験システムの大転換となる。が、何を目指すのかはっきりしない。検討の経過を国民に説明し慎重に論議しなければならない。制度変更ありきの性急な推進は混乱を招くだけだ。

 かつて、共通1次は受験生に原則5教科を課し「大学の序列化を招いた」と批判が噴出。90年開始のセンター試験は各大学が受験科目を自由に選べるようにした。が、高校の教育課程弾力化による科目選択の範囲拡大を背景に、2012年には問題配布ミスなどトラブルが多発。文科省内で試験廃止論が強まった。

 今回の到達度テストへの移行検討発表は、いかにも唐突だ。過度な受験競争を避け、一発勝負から地道な基礎学力定着への移行を狙うとされるが、さまざまな疑問が残る。

 到達度テストは年2~3回実施し、最も成績の良いものを受験に利用することを想定する。問題は3段階程度のレベルに分け、進学先の条件に合わせて選ばせる方針。点数で受験生を振り分けることに変わりはない。むしろ、今より長期間、高校生がテスト対策に拘束される心配がある。部活や運動会、文化祭など学校生活にも影響は必至だ。

 学校による学習進度の差は大きい。どう対処するのか。受験生が早くからレベル選択を迫られる可能性もある。大学側もどのレベルを選ぶかで序列化が進む恐れがある。

 近年、学力試験をしないアドミッション・オフィス(AO)入試や推薦入試が増え、学力低下が問題視されるようになったのを受け、文科省は達成度テスト導入による学習量維持や勉強への意欲向上もうたう。だが、従来の知識偏重型テストなら逆に意欲喪失も免れないだろう。

 制度設計も容易でない。問題作成にかかる時間や人、予算は膨大。受験産業を後押しするだけにならないか。高校卒業程度認定試験(旧大検)の位置付けや既卒者、社会人の受験体制も課題だ。

 文科省が参考にする米国の入試「SAT」は計7回試験を受け最も良い点数を大学に申請できるが、大学側は小論文や面接でボランティアなど課外活動を重視して合否を決める。フランスの「バカロレア」は年1回実施だが、哲学など筆記で考え方を問う。

 いま問われているのは学力観だ。何をもって学力とし、小学から大学までを通し、どんな人間を育てるのか、教育像が見えないのが最大の問題だ。根底の議論がない小手先の制度改革なら将来はない。

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