到達度テスト 受験生のための議論を 『信濃毎日新聞』社説 2013年6月7日付

『信濃毎日新聞』社説 2013年6月7日付

到達度テスト 受験生のための議論を 

 文部科学省が大学入試センター試験を廃止し、年に複数回受験できる新制度「到達度テスト」を導入する検討を始めた。

 センター試験が始まったのは1990年。共通1次試験が、大学の序列化や偏差値による“輪切り”を助長してきた反省からだった。

 私大も参加し、受験科目を各大学が決められるようになった。半面、1点刻みで合否を競う重圧に、受験生がさらされる実態はあまり変わっていない。

 到達度テストが詰め込み教育の弊害を取り除き、生徒たちの負担を和らげ、意欲的に学習に取り組めるような制度になるのなら異存はない。議論する政府の教育再生実行会議は、大学や高校の教育の在り方を含め、幅広い観点から検討してほしい。

 新制度は基礎学力が定着しているかを測ることを目的に、年2~3回実施。最も成績のよいものを受験に利用できるようにする。問題の難易度を3段階程度に分け、生徒たちに選ばせることを想定している。米国の大学進学適性試験「SAT」に近い。

 学生の学力低下に大学側が危機感を募らせている。学力試験を課さない入試や推薦で入学する学生が増えていることが要因の一つとされる。学生に高校科目の補習授業を受けさせる大学は多く、予備校から講師を招いているところもある。こうした実情も到達度テスト検討の背景になっている。

 気になるのは、難易度を「3段階程度に分ける」としている点だ。また、生徒たちを“輪切り”することにならないか。

 米国ではSATの点数とともに、高校の成績が重視される。両方の基準を満たしていれば願書を出すことができ、大学の多くは課外活動、論文、面接などの評価を加えて合否を決める。

 日本でもテストは一律にし、基準点を満たせば希望先に出願できるようにしてはどうか。出題も、学校で勉強していれば答えられる内容にとどめるべきだ。

 肝心なのは入り口で競うことより、大学に入ってからだろう。到達度テストが、生徒たちを新たな受験対策に駆り立てるようでは改革にならない。

 「大学全入時代」と言っても、進学率は50%ほどだ。生徒たちの卒業後の進路が多様化する中で、それぞれの高校が選択できる履修科目の幅を広げている。

 新制度が、各校の特長や生徒たちの学習ニーズに影響しないよう配慮が欠かせない。

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