『沖縄タイムス』社説 2013年5月31日付
[奨学金返済問題]県内の実態把握を急げ
日本学生支援機構(旧日本育英会)が大学生や専門学校生に貸し付ける奨学金の返済滞納額が年々増え続けている。2011年度は全国で約33万人が滞納し、滞納額は過去最高の876億円になった。
長引く不況で、大学を卒業しても就職できず、あるいは低所得雇用を余儀なくされた結果、返済が滞っている人が多いと指摘されている。
こうした状況に危機感を抱き、今年3月、全国の弁護士らが「奨学金問題対策全国会議」を設立した。奨学金問題で全国組織ができるのは初めてで、問題が深刻化している一端と受け止めたい。
設立時の集会では、連帯保証人の事業破産や自身の派遣切りで返済に苦しむ当事者の訴えや、滞納金の回収を強化する支援機構側に「貧困者を対象にもうける金融ビジネス」との批判も出た。
弁護士らによると、バブル崩壊以降、高校新卒者向けの求人が激減し、高卒のままで非正規になるよりも、有利子の奨学金を借りてでも進学したほうがいいというのが背景の一つという。
県内でも奨学金問題に取り組む「沖縄なかまユニオン」が中心となって今月、「奨学金返済に悩む人の会」が発足した。ユニオンには過去5年間で奨学金関連の相談が約200件寄せられている。
県内は失業率が高く、低所得者層が多いとされる。借りた金は払うのが当たり前という筋論は当然だとしても、奨学金を返済したくても払えない実態がどうなのか、丁寧な把握が必要だ。
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悩む人の会の初会合では、大学卒業後就職したものの、体調を崩し、奨学金の返済が滞った40代女性が悩みを打ち明けた。172万円を借りたが、延滞金が加わり、返済総額は500万円に膨れあがっているという。
奨学金は無利子のほか、最大年利3%の有利子で借りる方法がある。ただ、返済金を滞納すると、最大10%の年利をペナルティーとして課される場合もあり、多大な借金を抱える要因の一つだ。
この現状に政府は返済に苦しむ低所得層に配慮し、延滞金の年利について早ければ来年度に最大5%程度に引き下げる方向で調整している。
ただ、教育の機会均等を目指した奨学金制度の抜本的改革を求める声も強い。奨学金の返済が原因で若者の将来が左右されるようでは、社会全体にとってマイナスだ。無利子奨学金の拡充や返済の必要がない給付型奨学金など未来が描ける改革にしてほしい。
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日本は経済協力開発機構(OECD)諸国の中で、教育への公的支出が国内総生産比で最も低い国だ。時代に沿った大学教育をどう進めていくのか、視野を広げて奨学金問題を考えるべきだ。
11年度の奨学金利用者は約130万人、大学と専門学校生の3人に1人が借りている計算になる。貸付残高は7兆円を超える。
人口比からすれば県内学生も相当数が奨学金を受けている可能性があり、県も国や同機構だけに任せず、積極的に現状を把握してほしい。