奨学金滞納額、5年で3倍『読売新聞』佐賀版2013年5月26日付

『読売新聞』佐賀版2013年5月26日付

奨学金滞納額、5年で3倍

 経済的に困窮している高校生、大学生を対象にした県の奨学金制度の滞納額が約1億4900万円と、5年前に比べて約3倍に増えている。地域経済の回復の遅れが遠因だが、これ以上滞納額が膨らむと、資金不足に陥る恐れもある。このため運営する県教委は法的手段による回収の検討に入った。(村岡経世)

 県庁10階の執務室の一角。奨学金を担当する県教委の職員らが、4月分の返還状況の確認に追われていた。机の上に積まれた同月分の督促状は500通以上。担当職員は「なんとか返してもらわないと」と話した。

 県の奨学金制度は1961年度から始まり、国からの交付金と県費を原資にしている。2006年度の貸し付け開始分までは大学生も対象だったが、現在は高校生に限定。奨学金は月額1万8000~5万円で、入学時には一時金として10万~20万円を貸し付け、返還期限は最長20年間。

 10年度から高校授業料の無償化制度が導入されたが、奨学金の希望者は増加傾向にある。これまで年間700人程度で推移していたが、ここ数年で増え、12年度は約1000人になった。申請理由は「自営していたが廃業した」「勤め先からリストラされた」などの不況型が目立つ。

 奨学金のニーズが高まるなか、増えているのが滞納だ。県教委によると、07年度までの滞納額の累計は約5100万円だったが、08年度約6200万円、09度約7300万円、10年度約9200万円、11年度約1億3100万円と年々増え、12年度(暫定値)は約1億4900万円となり、滞納者は約1200人に上る。

 返還率をみると、07年度は88%だったが、12年度は80%にダウン。「非正規の仕事で生活が苦しい」「失業した」など返還に関する相談が増えており、背景に不況や不安定な雇用状況があるとみられている。

◇県教委、回収に法的手段検討

 制度では、低所得で返還困難な場合などに猶予を認めている。滞納となるのは、無断で払わなかったり、猶予が認められなかったりしたケースで、中には正当な理由を示さないまま10年以上も滞納しているケースもある。

 県教委はコンビニエンスストアで支払える納付書の配布や、民間の債権回収会社に長期滞納者への督促を委託するなどの対策を講じている。ただし、教育支援の制度のため、文書や電話で返還を要請する「モラル頼み」を基本としており、これまで強制的な取り立ては行っていなかった。

 現在、検討している法的手段は、簡易裁判所への支払督促の申し立てや、給与・財産の差し押さえなど。県教委教育支援課は「本当に必要な人に貸せない事態は避けなければならない。返還の呼びかけを徹底するとともに、滞納期間が長期にわたるなど悪質な例には厳しく対処するよう対応を改めたい」と話す。

◇熊本、鹿児島で返還率改善

 奨学金の滞納について、各地で様々な回収方法が導入されている。

 熊本県教委は、2010年度から滞納者の預金や給与、自動車などを差し押さえる法的措置に踏み切った。

 開始前の09年度は滞納者756人、返還率75.3%だったが、11年度は217人、82.7%に改善した。担当者は「申請段階で、滞納した場合は厳しく対処することを強調している」と話す。

 鹿児島県で奨学金制度を運営している同県育英財団は、09年度から「債権管理協力員」を20人程度に増員し、離島を含む県全域に配置した。滞納者の自宅を訪問するなどして、返還を促している。

 12年度の返還率は75.05%で、導入からの4年間で約7ポイント上昇している。担当者は「直接会って、滞納していることを相手に意識してもらうことが、返還につながる」と指摘する。

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