奨学生600人貸与打ち切り 支援機構、大学の審査覆す『朝日新聞』2013年5月23日付

『朝日新聞』2013年5月23日付

奨学生600人貸与打ち切り 支援機構、大学の審査覆す

 【大西史晃】大学生らに奨学金を貸している独立行政法人日本学生支援機構が昨年度、学生の所属大学などによる「適格認定」を覆し、約600人の奨学金の原則廃止を大学側に通知していたことがわかった。返還の滞納が社会問題になる中、異例の対応で奨学生の審査に厳しく臨む姿勢を示した。

 同機構から奨学金を借りている学生は毎年、新年度を迎える前に、返還義務の自覚や家計の状況を記入した「継続願」を提出する必要がある。所属する大学や専修学校が、学業への姿勢、成績などを基に貸与の継続にふさわしいかを審査。やむを得ない理由がないのに留年したり、ほとんど単位を取っていなかったりする場合は最も厳しい「廃止」と認定し、学生は借りる資格を失う。次いで、最長1年貸与を止める「停止」もある。

 昨年度の継続分についての審査は、91万人余りが対象となり、廃止は1万846人、停止1万2187人だった。一方、「このままの状況が続けば、次回の認定以後に廃止または停止する」という意味合いの「警告」となった奨学生が1万2329人いた。

 機構は昨年7月、警告となった奨学生について大学側の審査が適切だったかをチェックするため、初めて自ら「全件調査」に踏み切った。その結果、586人について大学側の判断を覆し「原則として廃止にすべきだ」と判断。昨年12月に大学側に通知した。特別な事情を認めて「停止」とした例も含め、継続の希望があっても今年度から貸与を打ち切った。

 機構広報課は「奨学金は学ぶことを応援する制度。学ぶ姿勢が見えないと認定された場合は、厳しく対応せざるを得ない」としている。背景には、経済状況の悪化を受けた学生の就職難などの影響で未返還の奨学金が増え、総額876億円(2011年度末)に上っていることがある。適格認定を厳格化し、奨学生の質の向上を図って将来の円滑な回収につなげたい考えだ。

 13年度継続分についても警告対象者の全件調査を実施する方針。状況が改善せず、大学側による厳格な審査が十分になされていないと判断される場合は、その後も続けていくという。また、大学が作業しやすいよう認定基準をより具体化することも検討している。

 一方、奨学金の問題に詳しい大内裕和・中京大教授は「将来の返還が不安で借りる額を抑えたためにアルバイトに時間を取られ、やむを得ない事情で勉学に集中できない状況の学生もいる。回収の強化より、もっと奨学金を充実させて学習環境を整える方が大切だ」と話した。

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