大学生の奨学金 社会全体で支える制度に『西日本新聞』社説2013年5月20日付

『西日本新聞』社説2013年5月20日付

大学生の奨学金 社会全体で支える制度に 

 就職難などから、大学卒業後に奨学金を返済できない人が増えている。滞納者を支援する対策を含め、奨学金件制度の拡充を図りたい。

 学費は上がる一方で、親からの仕送りなどは減り続けている。大学生が奨学金を利用する割合は年々上昇し、今では2人に1人が何らかの奨学金を受けているという。

 日本育英会などを再編した日本学生支援機構が国内の奨学金事業の大半を担っている。機構によると、2011年度の滞納者は約33万人で、01年度の2倍近くになった。滞納額は過去最悪の876億円に上る。

 裁判所を通じた11年度の支払い督促件数は1万件を超えた。このため一定の期間を過ぎた滞納者を個人信用情報機関に登録するなど回収に力を入れている。

 返済金は新たな奨学金の原資となる。返済しなければならないのは当然だが、卒業して数百万円の借金を返すことができずに自己破産する例もある。

 滞納者は、失業者や年収300万円以下の非正規労働者が目立つ。厳しい経済情勢を反映する社会問題でもある。

 滞納者の重荷になっているのは、返済額に対して年利10%の延滞金が課されることだ。

 機構を所管する文部科学省は、延滞金を年利5%程度に引き下げることを検討している。半歩前進だが、滞納者を大幅に減らす抜本的対策からは程遠い。

 所得に応じて返済期限を猶予する制度もあるが、できるだけ負担を軽くし、少しずつでも着実に返済できるような仕組みづくりを進めたい。

 一方で、利用する側も注意しなければならないことがある。将来の返済を考え、安易に奨学金を受けることは避けなければならない。あくまで借金である。

 かつて奨学金を貸与してきた日本育英会には返済免除などもあったが、機構では原則すべて返済しなければならないタイプとなった。無利子の奨学金もあるが、大半は有利子となっている。

 先進国では、返済義務のない給付型が普及している。日本でも家計が苦しい学生には一定の基準や資格に基づく給付型奨学金の導入を急ぐべきだろう。

 文科省は本年度予算に、大学生の海外留学を促進するための給付型奨学金として36億円を計上した。来年度以降には、民間資金を活用した「官民基金」の創設を目指している。

 国の財源だけでなく、民間の力も利用しながら、安心して大学に通うことができる奨学金制度にしていきたい。

 すべての子どもに教育の均等な機会を保証し、大学で優秀な人材を育て、卒業後には社会で活躍してもらう。この仕組みがうまく回り出せば、家計に左右されることなく、希望を持って前に進める社会の実現へ近づくのではないか。

 次世代を担う若者を育てる奨学金制度のあり方を社会全体で考えたい。

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