東大の推薦入試 多様な人材発掘につながるか『読売新聞』社説2013年5月21日付

『読売新聞』社説2013年5月21日付

東大の推薦入試 多様な人材発掘につながるか

 「受験秀才」ではない有能な人材発掘につながるだろうか。

 東京大学が2016年度入試から、推薦入試を導入する。独自の筆記テストを行わない入試は初めてだ。従来の選抜方法では見いだせなかった多様な学生を確保する狙いがある。

 入学定員の3%にあたる100人程度の募集を想定している。人数は決して多くはないが、筆記テスト中心の入試の在り方に、一石を投じる試みと言えよう。

 東大の浜田純一学長は4月の入学式で、「学部の学生構成の均質性が東大の弱さだ」と述べた。

 首都圏や中高一貫進学校の出身者が多く、女子学生や留学生が少ない環境では、学生が切磋琢磨(せっさたくま)して、社会で必要な力を身につける機会が乏しいとも指摘した。

 東大は論文数などを指標とした国際大学ランキングでも、欧米の主要大学の後塵(こうじん)を拝している。

 あらかじめ「正解」のある問題を手際よく解く能力に秀でた学生ばかりでは、世界で通用する独創的な研究者や様々な分野のリーダーとなる人材が育つのは難しい。今回の入試改革の背景に、そんな危機感がうかがえる。

 推薦入試では、高校長の推薦に加え、専攻を希望する分野に関する論文を提出させた上で、時間をかけて面接を行う。意欲や問題設定の能力をじっくり見極めようという姿勢は評価できる。

 推薦入試の合格内定者に大学入試センター試験を受けさせるのも特徴の一つだ。一定水準の成績を収めなければ、内定を取り消すこともあるという。

 京都大学でも、書類審査や面接などで能力を総合評価するAO(アドミッション・オフィス)型の入試を16年度から始める。東大と同様、センター試験の成績を合否の判断材料とする。

 これまで私立大学を中心に導入されてきた推薦入試やAO入試では、学力試験を課さないケースが多かった。東大や京大の新たな入試は、大学生の学力低下を招いたとの批判がある従来の方式とは明らかに異なるものと言える。

 東大や京大には、新たな選抜方法で入学する学生の才能を確実に伸ばすことが求められる。東大では早い時期から大学院の授業の聴講を認める方針だ。十分な成果を上げるには、指導方法に工夫を凝らすことが大切である。

 首相直属の教育再生実行会議でも大学入試改革がテーマとなる予定だ。東大や京大の取り組みを参考に議論を重ねてもらいたい。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com