北海道内の大学、労働トラブル続出 18日、緊急シンポ『朝日新聞』2013年5月16日付

『朝日新聞』2013年5月16日付

 北海道内の大学、労働トラブル続出 18日、緊急シンポ

 【林美子】北海道内の大学で、教職員の身分や大学運営などをめぐる労働事件が次々と起きている。解雇された教員が裁判を起こしたり、理事会の大学運営を批判して教職員組合が道労働委員会に救済の申し立てをしたり。相次ぐトラブルを受けて、18日には札幌市内で緊急シンポジウムも開かれる。

 1950年に短大として開学し、看護師や助産師を数多く育ててきた天使大学(札幌市東区)。2011年に教職員が組合を結成し、同年末、道労委に不当労働行為の救済申し立てをした。

 組合側によると、10年の学長選で学長が交代し、敗れた前学長が理事長を務める理事会が、教員側の意向や手続きを無視して各種の規程を改正するなどしたため、危機感を抱いた教職員が組合を結成した。

 しかし理事会は、教員の配置などをめぐる団体交渉に応じなかったり、教授会が推薦した人を教務部長に任命しなかったりしたという。組合代表の茎津智子教授は「このままでは自浄作用が働かない。教育の質を保ち大学としての機能を果たしていけるのか、社会に問いかけたい」と話す。

 菊地弘明常務理事は「04年の私立学校法改正で、経営の責任が理事会にあると明記されたのに基づいて規程を整備してきた。議論の過程で異論も聞いており、一方的に押しつけたわけではない」と反論する。

 大学運営をめぐるトラブルは、札幌大学(同市豊平区)でも起きている。大学が教職員の給与規定を一方的に引き下げたなどと主張して、教職員組合が今年2月、道労委に不当労働行為の救済を申し立てた。

 解雇や雇い止めをめぐる裁判も少なくない。今春閉校した専修大学北海道短期大学(美唄市)では、昨年3月、学校法人専修大学(東京)が希望退職に応じなかった教員8人を解雇。教員らが札幌地裁に訴えた。今年3月には、学生募集の停止をめぐるトラブルから、寺本千名夫元学長が諭旨免職処分を受けた。寺本元学長も近く裁判を起こす構えだ。

 千歳科学技術大学(千歳市)でも、今年2月に解雇された准教授が札幌地裁に提訴した。原告側は「教授会での採決など定められた手続きなしに解雇した」などと主張している。

■経営側の統率、顕在化

 私立大学の経営に詳しい林直嗣法政大学教授は「04年の私立学校法改正は、様々な関係者がバランスを取りながら大学経営を健全化させるため、『ガバナンス=協治』を強める趣旨。理事会などの『ガバメント=統治』の強化ではないのに、取り違えるとトラブルになりやすい」と話す。

 緊急シンポジウムの実行委員長を務める佐藤博文弁護士によると、道内では国立を含め10以上の大学でトラブルが起きている。佐藤弁護士は「04年の国立大学や私立学校の制度改革は、経営体制確立の美名のもと、経営側が大学の自治や学問の自由を統制する内容を含んでいた。それが10年近くたって顕在化してきた」と見る。「特に北海道では、自治体が大学を誘致するなど地域密着の側面が強く、大学の問題は地域の存亡にもかかわっている」

 「どうなってる!? 道内の大学 緊急!大学シンポジウムin北海道」は18日午後1時半~4時半、札幌市北区北10西7の北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟W103。各大学の当事者の報告やパネルディスカッションがある。資料代500円。問い合わせは北海道合同法律事務所(011・231・1888)。

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 〈大学改革〉 すべての国立大学は04年4月、国立大学法人に移行した。大学に裁量を与えて個性化を促すほか、教授会の合議中心だった大学運営をトップダウン型に切り替えて意思決定の速度を速めることなどが狙い。私立学校法も、帝京大による寄付金の簿外処理問題などをきっかけに同年改正され、理事会などの管理運営制度を整備し財務情報の公開を義務づけた。

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