【奨学金返済】担い手を社会で支えねば『高知新聞』社説2013年5月8日付

『高知新聞』社説2013年5月8日付

【奨学金返済】担い手を社会で支えねば

 奨学金で大学を卒業したものの、就職難で収入が安定せず、返済が滞るばかりか延滞金も――将来の社会の担い手を、こんな窮状のままいつまで放っておくのだろう。

 長引く不況の影響などで家庭の経済状況が悪くなり、現状では大学生の2人に1人が何らかの奨学金を利用しているとされる。

 代表的な奨学金機関である日本学生支援機構が2011年度に貸与した学生は無利子約38万人、有利子が約91万人で年々増える傾向にある。

 進学の夢を支える奨学金制度の意義は、今更いうまでもない。だが、ここ数年、卒業後に就職できなかったり非正規社員の身分が続いたりして、返済滞納者や滞納額が急増している。

 支援機構の滞納者は11年度に30万人を超し、10年前の約2倍になった。滞納額は約880億円と3倍近くに達している。返済に困った末、自己破産に追い込まれる若者も少なくないという。

 滞納者には、延滞金が年利10%課せられる決まりだが、支援団体には「負担が重過ぎる」との声が多く寄せられていた。そこで文科省は、早ければ来年度から金利を5%程度にとどめる検討に入ったという。

 負担軽減策の一環として文科省は、年収が一定額以下の低所得層の返済猶予期間を延ばす制度を設けている。成績が優秀な学生は、返済を一部免除する仕組みも検討しているという。

 ただし、こうした対策が滞納者らを減らす決め手となるかは疑わしい。確かに金利の負担減で一息つく滞納者はいるかもしれない。だが、根本的には景気や雇用の改善が伴わない限り滞納額などは減らないだろう。

 日本は支援機構を含めて官民のほとんどの奨学金制度は貸与型だ。一方、欧米では返済義務がない給付型が主流で、それは社会全体で若者を支えていくことを目的にしている。

 卒業後に安定収入を得た社会人が奨学金を返済し、後輩学生を支える貸与型も当然残してよい仕組みだろう。だが、以前この欄で取り上げた通り、日本は公的教育費の政府支出割合が先進国中最低だ。

 それならば、もっと教育関連に公費を使ってもいいはずで、貸与型から給付型へとそろそろ軸足を移す時期かもしれない。将来の担い手を社会全体でいかに支え、育てるのか。奨学金制度からの重い問い掛けだ。

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