人材育成、質も量も 大学政策の課題 文科相に聞く『日本経済新聞』2013年5月6日付

『日本経済新聞』2013年5月6日付

人材育成、質も量も 大学政策の課題 文科相に聞く

勉強する仕組み作る 学び直しの役割も

 安倍晋三内閣が発足して国の文部科学政策も大きく変わりつつある。教育再生実行会議がいじめ問題と教育委員会制度改革に続いて大学の在り方について議論を始めたのを受けて、下村博文文部科学相に当面の大学政策の課題を聞いた。

 ――高等教育政策の最重要課題は何ですか。

 量的な拡大と質の向上を、ともに進めていくことだと思う。田中真紀子前文科相の時、新設大学の設置認可で大騒ぎになった。私立大学の4割以上が定員割れを起こし、3分の1の大学が高校の学習の補習をしている現状を考えれば、国民の中に、これ以上の新規参入は好ましくない、設置認可を厳しくせよという意見があるのは確かだ。

 だが、世界を見れば、この20年に経済発展を遂げたのは、いずれも高等教育、大学教育に力を入れてきた国だ。日本の4年制大学への進学率は51%だが、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は62%。韓国や米国は70%を超す。オーストラリアは96%だという。日本は高学歴社会と思っていたら、気がつけば低学歴国になっていた。日本の経済成長を支えるには、より高度な人材を多数育成することが必要だ。それには、高等教育の質と量をどちらも高めなくてはならない。

 ――質を高めるにはどうすればよいのですか。

 学生に勉強させないといけない。日本の学生は諸外国に比べて勉強していない。1週間の勉強時間が6時間に満たない学生が半分以上というデータもある。最大の問題は、入るのは難しくても出るのは簡単で、大学がレジャーランド化していることだ。これではグローバル時代を生き抜く人材は育たない。大学の教育力を高め、学生の質を高めるために、大学と学生双方のインセンティブとなる政策を考えたい。

 教育課程の体系化や教育方法の改善、成績評価の厳格化、教員の教育力の向上など取り組むべき課題はたくさんある。設置基準の明確化や設置認可制度の見直し、認証評価の改善・充実なども重要だと考えている。

 就職活動の時期も重視している。安倍首相自ら経済界に就活時期の後ろ倒しをお願いした。大学でろくに勉強をしていない学生を採用しても企業にプラスにならない。

■入試を変える

 ――量の拡大で重要なことは。

 社会人の学び直しだ。いったん社会に出て、もっと能力が必要だとか、人生を再挑戦したいと考えた人が大学でスキルを磨く。大学を学び直しの場にしたい。欧米では25歳以上の学生が20%程度を占める。学び直しには、学費や社会構造の問題がある。今のままでは、仕事を辞めて入り直すにはリスクが高過ぎる。

 ――入試改革も重要です。

 日本の将来を考えると、入試制度はぜひとも見直さなくてはならない。今のペーパー入試は、限られた時間で知識量や処理能力を問うているが、そうした能力はロボットやコンピューターに任せればすむ。これからの時代に問われる能力、企業が求めている能力とは、ロボットやコンピューターでは対応できない能力、例えば、答えのない問いに挑戦する力やコミュニケーション能力、企画力、創造力などなのに、今の入試は20世紀型の能力を問うている。大学の育成している能力と求められている能力にギャップがある。象牙の塔の勘違いで、大学は社会に必要な人材を育てなくてはならない。

 幸い、東京大学が推薦入試の導入を決めるなど、国立大でも入試改革の動きが出てきた。入試そのものを変えていく必要がある。

 ――国立大学改革について。

 産業競争力会議でも運営費交付金の一律支給ではなく、努力する大学を評価する仕組みが必要だという議論が出た。国立も私立も横並びではなく、それぞれの特性を生かす改革が必要だ。

■秋入学を支援

 ――東大の秋入学構想をどう思いますか。

 就任直後に浜田純一学長に大臣室に来てもらい、秋入学を支援するので頑張ってほしいとお願いした。

 大学の入学時期については、学長が自由に決められるように既に法律を改正している。各大学が独自の判断で、秋入学を導入したり、高校卒業から入学までのギャップタームを活用したりすることは重要だ。文科省もギャップターム中の短期留学支援、各種資格試験の実施時期や受験資格の在り方などの環境整備を検討し、各大学の取り組みを支援していく。

 ――教育再生実行会議も大学改革の議論を始めました。

 大学教育は論点が多岐にわたる。まずは、我が国の成長戦略に資するテーマ、例えばグローバル人材の育成や社会人の学び直しの推進、大学の機能強化などについては、政府の成長戦略の策定に反映できるよう一定の方向性が出た段階で提言にまとめたい。

 一方、大学入試など高校以下の教育の在り方にも関連するテーマは、少し時間をかけて議論することになるだろう。

 ――大学教育の充実にはお金がかかります。

 日本は教育に対する公財政支出が少ない。国内総生産(GDP)比3.8%はOECD平均(5.8%)を大きく下回る。重い教育費負担が少子化の一因にもなっている。進学も留学もままならず、社会人の学び直しにも支障が出るようでは、若い人をつぶし、日本の将来をつぶす。

 そこで、GDPに対する公財政支出の割合を、せめてOECD平均並みにしたい。それには約10兆円が必要だが、これは今の文科省の予算の倍で、大変な額だ。だが10兆円あれば、大学をほぼ無償にしたり給付型奨学金を増やしたりできる。問題は財源だ。私案だが教育目的税の導入も考えられる。教育をよくするにはこれだけお金がかかるということを、税制を含めて国民に問うことも、いずれ必要になるだろう。省内で検討させている。

(聞き手は編集委員 横山晋一郎、羽鳥大介)

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