友達ができない 休学 独りぼっちが怖い・・・トイレで食事 レンタルフレンド『読売新聞』2013年1月7日付

『読売新聞』2013年1月7日付

友達ができない 休学
独りぼっちが怖い・・・トイレで食事 レンタルフレンド

 「気が合いそうな相手とペアになって」と促され、約70人の若者が2人ずつ向き合い、自己紹介を始めた。

 関西福祉科学大(大阪府柏原市)に入学予定の高校3年生らを集めた<顔合わせ会>。行われたのは初対面同士、相手の得意なことを聞き出す「インタビューゲーム」だ。雰囲気は徐々に和み、あちこちでメールアドレスの交換が始まる。

 友達作りの一助に、と3年前から開かれているこの会。「友達ができないからと、休学や退学してしまう学生もいるので」。司会を務めた准教授の長見まき子が、事情を打ち明けた。

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 文部科学省によると、2012年度の大学の休学者は過去最高の約3万1000人に上り、ここ10年で1万人近く増えた。一方、内田千代子・福島大教授が57の国立大に行った09年度の調査では、休学理由は意欲減退などの「消極的理由」が31%で最も多く、この傾向は2003年度以降、続いている。

 関西の国立大に通う翔太(24)(仮名)の場合、入学1か月で不登校になった。

 中学や高校と違い、大学では自分で履修する授業を決め、その都度教室も変わる。待っていても誰も声をかけてくれない。でも、自分から話しかけるのは、変に思われそうでできない。気がつけば1人。「めしを食う相手もいない」と思われたくないと、トイレの個室にパンやおにぎりを持ち込み、息をひそめて食べた。

 インターネットの掲示板を見ると、周りから孤立する学生は「ぼっち」と称され、バカにされていた。「大学に向かうだけで手が震え、腹が痛んだ。他人が怖かった」。6年前の苦悶(くもん)を、翔太は振り返る。

 大阪大非常勤講師の井出草平らの調査では、大学で不登校となった学生の8割以上が、高校までは普通に登校していた。「今の学生はサークルや部活にかつてほど参加していない。友達作りで最初につまずくと、ずっと孤立してしまう」。井出はこう指摘する。

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 「ついてきてもらえませんか」。浩一(25)(仮名)が昨夏、電話で依頼した先は東京都内の便利屋「クライアントパートナーズ」。ダンスを楽しむ若者でにぎわう「クラブ」に行きたくなり、「レンタルフレンド(友達代行)」という有料サービスを申し込んだ。

 友達役の女性2人が同行し、3万円。フリーターには痛い出費だが、1人で行くのは嫌だし、知り合いを誘って断られるのもつらい。

 1週間後の深夜。「浩一さん、踊れますか」。女性たちは笑顔を絶やさず、気さくに話しかけてくれた。1時間ほどでクラブを出た後も、レストランで明け方まで楽しく過ごした。

 「無条件に受け入れてもらえる安心感がある。孤独が癒やされた」。そう喜ぶ浩一は学生時代、仲良くなれると思った相手に自分の話ばかりして嫌がられた。「傷つくくらいなら、お金を使った方がいい」と言う。

 同社へのレンタルフレンドの依頼は月数十件。多くは、他人との距離感に戸惑い、悩み、自信を失った若者からだ。代表の安倍真紀(37)は「確固たる自分の価値観がないから、他人の評価を必要以上に気にしてしまう。でも彼らは往々にして、ネット上では交友関係が広い。それは相手の顔色をうかがう必要がない一方通行のコミュニケーションですからね」と話す。

 親に勧められてのぞいた自助グループに通い、その後、立ち直ることができた翔太には、レンタルフレンドを利用する若者の気持ちが、痛いほどわかる。「本来、友達とかと一緒に行くべき場所に、1人で行くという選択肢はないんです。こんなところに1人で来ているやつって思われるのって、しんどいんですよ」(敬称略)

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