田中文科相 「前言撤回」では済まぬ『北海道新聞』社説2012年11月9日付

『北海道新聞』社説2012年11月9日付

田中文科相 「前言撤回」では済まぬ

 田中真紀子文部科学相が、札幌保健医療大など来年度開学を目指していた3大学の申請を「不認可」から「認可」へ変更した。

 大学関係者や受験生らを不安に陥れ、混乱を招いた。最大の原因は文科相の独断専行にある。

 文科相は謝罪し、一連の経緯について説明責任を果たさなければならない。その上で大学設置のあり方について真剣に議論すべきだ。

 3校は大学設置・学校法人審議会の審査を経て開学準備を進めていた。手続きに何の過ちもない。今月は推薦入試の募集を始める予定だった。不認可を突きつけられた関係者のショックは察するに余りある。

 最終的な認可権限は文科相にある。だからといって各大学の問題点も示さず、「大学の数が多すぎる」などの漠然とした理由で不認可とするのは理不尽である。

 受験生にとっては入試に向け追い込みの時期だ。1日たりとも無駄にできない。「志望校消滅」の恐怖にさらされたこの1週間近い空白は、簡単に取り戻せるものではない。

 文科相には、自らの発言が当事者に与える影響についての認識が欠けていた。批判を受けると一転して認可を表明した。閣僚としての適格性すら問われかねない。

 本人に反省の色はない。それどころか3大学について「逆に良い宣伝になった」と記者団に開き直った。こんな無責任な態度は許されない。

 田中氏は小泉純一郎内閣の外相当時、外国要人との会談キャンセルなどの問題行動が指摘された。それを知りつつ閣僚に任命した野田佳彦首相の責任も問われる。

 文科相は3大学不認可の方針を発表前に首相に伝えていた。首相は「そのまま進めてください」と答えたという。首相にも混乱の経緯について説明する責任がある。

 藤村修官房長官は「大臣として間違っていない」と文科相を擁護した。野党が攻撃姿勢を強めていることから、政権への打撃を避けたいのだろうが、責任逃れにしか見えない。

 混乱にけじめをつけた後で、大学設置のあり方を論じてもらいたい。

 多くの私大が定員割れとなっている現状は放置できない。都市部に学生が集中し、地方で定員割れを起こす傾向がある。一方で地方の大学は地域の人材育成の場でもある。それぞれの事情を考慮して、質量ともに適正化を図ることが肝心だ。

 文科相が指摘した大学設置審の改革はしっかり進めてほしい。大学関係者に偏った委員の人選は幅を広げるべきだ。設置審査の進行中に大学側が校舎建設を進め、答申の時点では後戻りできなくなる実態もある。制度の抜本的見直しが必要だ。

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