大学設置問題 拙速避け本気で議論を 『東京新聞』社説2012年11月10日付

『東京新聞』社説2012年11月10日付

大学設置問題 拙速避け本気で議論を 

 三大学の開設が不認可とされた騒動は紆余(うよ)曲折の末、田中真紀子文部科学相が翻意し、謝罪して収まった。だが、問題の本質は、大学の乱立を放任してきた文教行政にある。議論を深めたい。

 来春の開学を目指す岡崎女子大(愛知県岡崎市)などの三大学はさぞかし肝を冷やし、憤慨しただろう。入学を志す若者たちも一時は途方に暮れたに違いない。

 三大学の開設を認めるとした大学設置・学校法人審議会の答申をいきなりひっくり返したかと思えば、強い非難にさらされると一転して引っ込める。

 田中氏の唐突な発言で持ち上がった騒動は、文教行政を混乱に陥れ、信頼を損ねた。国と地方の対立にさえ発展しかねなかった。トップとしての責任は大きい。

 現行制度下で審議会が認めた個別の大学の開設に待ったをかけたのは、行政の一貫性を欠いた。しかし、大学のいわば粗製乱造に歯止めをかけ、高等教育の質を向上させるべきだという田中氏の訴えは、極めて重要な問題提起だ。

 田中氏の指摘には、本紙読者からも「官僚による大学増設政策は破綻している。大臣の蛮勇を支持する」といった声が多く寄せられた。普通の市民目線に立てばいくつも疑問が浮かぶのだ。

 なぜ少子化の中、大学の新設が相次ぐのか。なぜ認可が下りる前に校舎が立ち、教員が確保されているのか。つぶれた大学の在学生の就学機会は担保されるのか。大学がビジネスの手段や官僚の天下り先に堕していないか、と。

 大学が増えた背景には一九九〇年代からの規制緩和がある。国からの私学助成金を当て込み、専門学校が大学にくら替えしたり、就職実績が芳しくない短大が四年制大学に衣替えしたりしてきた。地方では若者の流出を防ぐため、開学を後押しする自治体も多い。

 高等教育の質をどう保つかという問題は、中央教育審議会でも長く論議されてきた。一向に成果が上がっていないのは現状が証明している。大学行政の立ち遅れはもはや目に余る。

 文科省は田中氏の意向を踏まえ、大学設置認可制度の在り方を話し合う検討会議を近くつくる。大学設置基準や審査方法を見直すというが、形だけの議論は許されない。

 社会の需要はあるか。学生は集まるか。安定経営は可能か。大学新設は当面見送ってでも、幅広い人材を交え腰を据えて検討するべきだ。田中氏のいう生活者や納税者の視点も欠かせないだろう。

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