『読売新聞』2012年9月30日付
東大・京大、ナノ技術など人材育成で異例の連携
世界最先端のナノ・マイクロ技術分野の研究で人材育成を進めるため、東大や京大などは今月から、神奈川科学技術アカデミー(KAST、川崎市高津区)が開発したシステムを利用し、インターネットを通じた遠隔講義を始めた。
東大と京大が人材育成事業で連携するのは、異例という。
ナノ・マイクロ技術は、100万分の1メートルから10億分の1メートルという超微細な尺度で物質を加工する技術で、スペースをとらない小さな化学実験設備や機械のわずかな振動で発電できる超小型発電装置など、幅広い分野への応用が期待されている。
遠隔講義は、国内の研究成果や技術を結集し、国際競争力の育成を図るため、文部科学省が進める「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス事業」(GRENE)の一環。参加者は、大学の教室やKASTのパソコンから、研究機関が専用サーバーに保管した講義データにアクセスして受講する。
技術開発が高度・専門化する中、人材育成には学生や研究者間の研究成果の共有や相互連携が必要だ。国内では大学や研究機関、企業の枠組みを超えた教育システムの構築が、課題となっていた。
社会人講座を長く実施してきた実績から、KASTが人材育成の拠点として選ばれ、昨秋から遠隔講義のシステムを開発してきた。
今年度は来年2月末まで、東大、京大、東工大などの6機関が、学生や企業の技術者向けに、大学専門課程から大学院レベルの遠隔授業をする。今後は大学同士の相互単位認定も検討していくという。
この事業で人材育成を担当する京大大学院工学研究科の平尾一之教授(材料化学)は「各大学の知識を枠を超えて伝えることで、ものづくりの人材を育て、日本を世界水準の研究大国にしていきたい」と意気込む。同アカデミーの馬来義弘理事長は「今後、講義の内容をさらに充実させたい」と話している。(藤亮平)