『河北新報』社説2012年10月1日付
法曹養成見直し/司法改革の理念忘れずに
法曹養成制度の在り方を抜本的に見直す有識者による検討会議の初会合が先日開かれた。
司法の担い手、法曹(弁護士や裁判官、検察官)を育てる中核の機関として法科大学院が2004年に創設されてから8年。課題が鮮明になっており、改善に取り組むのは当然だ。
ただ、質量ともに豊かな法曹を確保し、「身近で利用しやすい司法」の実現を掲げた改革の理念をぐらつかせてはいけない。
見直しの要因は、法科大学院修了者の司法試験合格率の低迷と、その結果としての志願者数の減少や、増えた法曹人口の大半を占める弁護士の就職難の深刻化にほぼ集約できる。質の低下を懸念する向きもある。
7、8割を想定していた合格率は当初から低めに推移、ことしは25.1%(予備試験通過者を含む)にとどまった。合格者が過去最多の2102人に上ったとはいえ、目標の年間3千人を大きく下回ったままだ。
その結果、7万人を超えていた志願者は減少を続け、12年度は約1万8千人で4分の1にまで落ち込んだ。
合格者が伸び悩んでいるにもかかわらず、司法修習を終えた新人弁護士の就職先探しは難航。速やかに弁護士登録をできない人が増えている。
「市民の司法」を支える有能な法律家を増やすための養成制度が、目標と現実の落差によって志願予定者の法曹離れを招き、一般市民の法曹イメージを損ねては元も子もない。
大学院の乱立による定員の多さが危ぶまれていた。大学院に通えない人のためにことし始まった司法試験の「予備試験」を通った受験者の合格率が68%に達しており、大学院の存在自体が問われかねない状況だ。
教育内容をあらためて吟味するとともに、司法試験とのつながりを強めるべきだ。理念に掲げた多様な人材を取り込むため、受験回数制限(5年以内3回)の緩和も検討していい。
定員割れ続出の状況を踏まえて大学院の統廃合を進めるほか、法曹人口の望ましい規模の練り直しも視野に入る。
ただ、法律家の大都市偏在に伴う司法サービスの地域格差は解消せず、削減ありきの議論に陥るのは避けたい。大学院と定員の地域適正配置に努め、合格目標の削減も弁護士の活動分野を広げる手だてを尽くすこととセットでなければならない。
原子力損害賠償紛争解決センターの審理が滞っている。弁護士らスタッフ不足も要因とされる。法曹人口の過剰感は、ニーズを掘り起こし切れていない結果のようにも映る。
企業や行政機関に所属する「組織内弁護士」の採用促進の働き掛けは十分だろうか。企業内弁護士は増えてはいるが、まだ開拓の余地はあるし、国や都道府県、政令市の大規模自治体で条例づくりなどに能力を発揮してもらう可能性も探りたい。
弁護士の就労問題に引きずられては十分な成果を期待しにくい。改革の原点を踏まえた総合的で丁寧な見直しを望みたい。