法曹養成見直し 改革の「理念」を見失うな『西日本新聞』社説2012年9月26日付

『西日本新聞』社説2012年9月26日付

法曹養成見直し 改革の「理念」を見失うな

 有識者による政府の「法曹養成制度検討会議」が始動した。鳴り物入りでスタートした司法改革だが、その根幹をなす法曹(弁護士、裁判官、検察官)養成システムが混迷している。そこにメスを入れ、制度を抜本的に見直すのが目的だ。

 見直し自体に異論はないだろう。

 政府は2002年、司法改革の要となる司法試験合格者を10年ごろ年間3千人にする目標を立て、その中核養成機関として04年度に法科大学院を創設した。だが、08年に2千人に達して以降、伸び悩み、計画は思うように進んでいない。

 最大の要因は「法曹の卵」を輩出する法科大学院の乱立である。全国で74校も開校し、修了者の7~8割とされた司法試験合格率は2割台に低迷している。今年の合格率も25・1%にとどまった。志願者も減り続け、本年度は初年度7万2800人の4分の1にまで激減した。

 この結果、一方で合格者の質の低下が懸念され、他方でいまの合格者数でも弁護士の就職難が取りざたされているのが現状だ。ここに来て、入学者減による法科大学院の閉鎖も相次いでいる。このままなら、有為な若者が法曹界からますます離れていく事態も憂慮されよう。

 今年に入って、総務省が制度の見直しを勧告し、合格者数の目標を年間1500人に抑えるよう求める日弁連が、法科大学院の統廃合や入学者定員の大幅削減を提言したのも、そのためである。

 ただ、見直しが司法試験合格者数や法科大学院数の絞り込みといった単なる「数合わせ」に終わっては元も子もない。

 「市民に身近な司法」を追求するのが司法改革の理念だったはずだ。これまでの法曹増員で一定の成果が上がっていることを、忘れてはならない。

 地域によって弁護士が少ない司法過疎問題は相当改善し、法律相談などで市民を支援する法テラスも浸透してきた。付添人制度など法律家が身近な存在として活躍する場も、確実に拡大した。

 こういったプラスの面を正当に評価したうえで、何が足りないのか。改革の原点に返って検証する必要がある。

 そもそも、今回の司法改革は21世紀の日本社会を見据え、多様な法曹を養成・確保する狙いがあったことを思い起こすべきだ。法廷業務をこなすなど受け身ではなく、もっと積極的に社会や企業に入り込み、「国民の社会生活上の医師」の役割を果たすことが期待されていた。

 さらには、知識が幅を利かす司法試験という「点」による選抜ではなく、法科大学院から司法試験、司法研修までの「プロセス」を重視し、それらを有機的につなぐのも重要な論点だった。それによって、実社会に即した実践的で幅広い法曹養成を目指したのではなかったか。

 誰のための改革か。見直し論議は、ここから始めるべきだ。決して法曹関係者のためではない。どうすれば一般市民に法の恩恵を実感させ、頼りがいのある司法を実現できるのかが問われている。

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