『東京新聞』社説2012年9月26日付
司法試験 大学院教育とつなげよ
法科大学院を経ない予備試験からの司法試験合格者が初めて出た。「特急コース」が拡大すれば、大学院制度の意味が薄れる。むしろ、試験自体を大学院教育とつなぐよう根本的な改革が必要だ。
予備試験は、法科大学院を修了した者と同等程度の知識や応用力が試される制度で、昨年度に初めて実施された。これに合格すると、司法試験の受験資格を得る。
もともと大学院に進む資力に乏しい人や、働きつつ法曹をめざす社会人らを想定して導入された、例外的な仕組みといえる。
今年の司法試験合格者は二千百二人で、そのうち予備試験のコースを経た受験生は八十五人おり、五十八人が合格した。合格率は68・2%であり、法科大学院修了者の合格率24・6%と比べて、極めて高かった。
しかも、合格者のうち、大学生が二十六人で、大学院生が八人にのぼった。つまり、現役の大学生らが法科大学院を修了しなくても、司法試験に合格できる「特急コース」となったわけだ。
法曹界の中には、この予備試験ルートを拡大した方がいいという意見がある。だが、今後、「特急コース」の間口をうんと広げてしまったら、必然的に誰もがその道を選択することになろう。大学院に通うよりも、費用や期間の点で、効率的だからだ。
それでは司法制度改革の柱の一つである、法科大学院制度の理念と目的がかすんでしまう。
改革すべきは、むしろ、司法試験そのものにある。短答式と呼ばれる試験科目も増え、暗記する知識が多くなっている。論文式試験も質問範囲が広く、質と量もレベルが高すぎると指摘される。
難解な問題を解く能力が高い人ばかりを選抜する、知識偏重の仕組みを脱すべきである。受験技術にたけた人と、優れた法曹人とは必ずしも一致しないからだ。
法科大学院では、幅広い教養を身につけさせる法曹養成をめざしている。実務教育を重視したり、先端展開科目という、司法試験とは直接かかわらない法律や科目を教えたりしている。
だから、司法試験も一定レベルの法律知識のチェックを受けるだけで、合格させる仕組みにしてはどうか。医学部で真面目に勉強すれば、おおむね医師国家試験に合格できる。それと同じように、本道たる大学院で真剣に学んでいれば、おのずと法曹人になれる試験制度にすべきだ。